- 宮前区馬絹の有限会社吉仲の吉田義一さん(78)は、花の生産を続けて2023年で60年以上。全国で有数の農業技術者に贈られる、農林水産省「農業技術の匠」や、川崎市が認定する「かわさきマイスター」(花き生産)にも選ばれているプロフェッショナルです。
「好きなことは夢中になってできる」
吉田さんを表すのが「花桃(はなもも)」の生産。花桃は、馬絹で江戸時代末期から始まったとされる伝統的な枝物で、祖父・吉田仲右衛門は馬絹の花き生産の草分け存在だったといいます。実家を継ぎ、18歳の頃から3代目として花桃の生産に携わる吉田さんは、枝を細い紐で束ねる「枝(し)折り」技術の第一人者です。
花桃はつぼみも黒いままの枝を収穫し、枝を短くする「そくり」を経て、手早く枝をまとめます。その後、温度と湿度を調整した「室(むろ)」と呼ばれる暗室に入れて開花時期を調整。温度を調整して色よく花を咲かせることは「蒸(ふ)かし」と言います。
毎年、3月3日の桃の節句にあわせて出荷のピークを迎えます。今春は、バケツ500杯分もの花桃を全国各地に届けました。
代々続く花桃の生産ですが、吉田さんは重労働の枝折り作業に結束機を導入したほか、「ムロ」を地下から地上に移動したことで、作業効率の向上と生産量拡大に貢献。きれいな花が咲くよう、毎年の研究も欠かしません。
「同じような作業に見えても、その年の天候に合わせて花を咲かせなければならない。目には見えない難しい部分がありますが、いかに観察して手入れをするかで、差が出てくる。きれいに咲くよう努力して、いい花が咲くとすばらしい気持ちになりますね」と吉田さん。
ここまで研鑽を重ねてきたことについて、吉田さんは「仕事が好きで、花を生産することが好き。花を飾る人や、贈る人、生け花の稽古に励む人など、自分がつくった花を喜んでくれる人のために、一生懸命によいものをつくろうと考えてきた。好きなことは夢中になってできるからね」と笑顔を見せます。
後進指導にも尽力
花の生産技術を吉田さんから学ぼうと、かつては全国からお弟子さんも集まりました。吉田さんは「福島、名古屋、栃木、いろいろなところから、住み込みや通いながら来ていましたね。花の生産で生活できるようになるのは大変だけど、優秀な人は地域のリーダーとして活躍していますね」と語ります。
現在は、2人の息子とともに花桃を生産しています。
次男の貴次さん(49)は2023年、「第71回関東東海花の展覧会」の品評会で農林水産大臣賞を受賞。同展覧会は、国内最大規模の伝統ある展覧会。全10部門約2000点が出品された中、貴次さんの花桃は、枝物部門で最高賞に選ばれました。
「息子たちも一生懸命やってくれて有難い」。吉田さんは目を細めます。
「喜んでくれる声がうれしい」
生産以外にも、子ども向けの生け花教室では「自由な発想で好きにアレンジする」生け花を教えるほか、趣味では、立派な土佐犬を育て上げています。地元では41年消防団に所属し、安心・安全のまちづくりに関わってきました。
そんな吉田さんは、今もさまざまに挑戦を続けています。
昨年は初めてサツマイモづくりに挑戦。1600株を植え、良い出来栄えに近所の方にも配ったところ、大変よろこんでもらえたとか。「花はいっぱいつくっているけれど、野菜はあまりつくったことがないから、チャレンジしてみたくて」と話し、今年も栽培を予定します。
- 吉田さんは「年だから何かをあきらめようとは思わない。つくったもので喜んでくれるのが嬉しいし、その気持ちに応えたい」と、プロフェッショナルとしての思いを語ってくれました。