秋の深まりとともに、青紫に咲く鎌倉縁(ゆかり)の竜胆の花。その清楚で凛とした美しさから、枕草子や源氏物語などの文献にも古くから登場し、多くの人々に愛されている。
枕草子では「竜胆は(中略)、異花どもの皆霜枯れたるに、いと花やかなる色あひにてさし出でたる、いとをかし」と、他の花が霜枯れる季節に鮮やかに咲く様を賛美している。
また源氏物語では「枯れたる草の下より、竜胆のわれひとりのみ心ながう這い出でて露けく見ゆる」と、竜胆の咲く晩秋の風情を豊かに表現している。
かたや竜胆の根は、古(いにしえ)より薬として重宝されているが、その味が「竜の肝(胆)のように苦い」と例えられたことから、「竜胆」と書くようになったとも聞く。
また、竜胆はその花姿から、高潔さや正義感の象徴とされていたため、武士や貴族の間では家紋(竜胆紋)としても愛用されてきた。特に笹竜胆は多くの源氏が用いるとともに、鎌倉市章のデザインにも使われている。
そんな竜胆の咲く寺院といえば、北鎌倉では明月院。月笑軒前で群生して咲く姿は見事である。かたや東慶寺の本堂前でも楚々として咲く。
また海蔵寺(扇ガ谷)の仏殿前や、報国寺(浄明寺)の参道沿いでは、庭園の苔むす緑と青紫に咲く竜胆とのコントラストが美しい。
晩秋の竜胆が咲く静かな境内に佇めば、古の都(みやこ)人(びと)らが愛(め)でた花々の姿も目に浮かんでくるようである。
石塚 裕之