「それボークだぞ!」「いや(プレート)外しているよ!」。人工芝のグラウンドに響く声、仲間の一挙手一投足に微笑む選手。週2回、主に火曜日と木曜日に集まり野球を楽しむシニア世代。毎回30人ほどの「おやじ」たち、いや主には「おじいちゃん」たちが白球を追いかけている。
練習は主に紅白戦で、対外試合はない。ツーアウト満塁で一打逆転の場面。一塁走者の荒井源道さん(87)は韋駄天のようにスタートを切った。盗塁とはいえ二塁上には走者がいる。もちろんタッチアウト。下を向き、快足のまま少し蛇行しながら一塁側ベンチに戻る。その荒井さんに、チームのまとめ役・池田彰一さん(80)が「ドンマイ・ドンマイ」と笑顔で声をかけた。グローブを手にしたチーム最高齢の荒井さんが記者をキャッチボールに誘う。親子以上の歳の差はほどなく逆転し、シューッ、シューッと風を切る回転のいい球がグラブに吸い込まれる。肩が温まった荒井さんは、「いい思い出になった」と、軽く会釈するやいなや、ポケットからスマホを取り出し、ツーショットの撮影を懇願した。荒井さんは、「規則も何もなくて気がラク。前の日はいつも眠れない」といい、ポンっとグラブを叩いた。
この綾瀬グランドシニア野球クラブには現在、約60人が所属している。住まいは綾瀬を中心に大和や座間、海老名など近隣他市にも及ぶ。名門Y校の元高校球児や元甲子園球児、往年のプロ野球、大洋ホエールズで活躍した元選手も時折顔を出す。メンバーの大半は還暦や古希、傘寿の草野球チームにも所属している。総会も納会も、飲み会も、旅行もないがそれがかえって気楽というメンバーが多い。会費は年間500円。1回100円から200円ほどを集め、そのお金でグラウンドの使用料を支払う。1月5日の練習始めでは能登半島地震への義援金を募り、浄財を被災地へ送った。2006年の創立時から参加する代表の飯田竝みつよし彬さん(86)は、「はじめは2~3人だった。(日々の生活は)みんなそれぞれ。こうやって楽しめて幸せだね」というと、バットを引きずりながら打席へ向かった。活動日の出欠確認もない。一塁側、三塁側、その時々で好きなベンチから参加できる。平均年齢は75歳。選手はまだまだ現役バリバリだ。活動の問い合わせは児島年夫さん(080・6787・9691)。