伝統的な蒲鉾づくりをなりわいとする籠淸は1814年に漁業の傍ら蒲鉾をつくりはじめ創業210年、そして本店は関東大震災による倒壊後、翌1924年に再建されて100年と節目の年を迎えます。
テーマは「温故知新」 ~伝統と進化~
再建100周年を機に、母屋を改修し、2024年4月27日に鏡開きと、地域へのお披露目会を企画。「温故知新」をテーマに、「再建当時の状態に戻しつつ『今』を取り入れた本店の格式と上品さを併せもつ和モダンな作り」は、見所もいっぱい。「小田原界隈の一流職人たちの力を力を借りた」と話す、改修ポイントを籠淸の石黒太郎専務取締役に紹介してもらいました。
籠淸…1814年に小田原市で鮮魚の江戸輸送を営むかたわら、蒲鉾の製造を開始。水、魚、石臼、浄水にこだわり、昔ながらの蒲鉾づくりを現代に残す老舗店。
御幸の浜から、店まで続くイメージをコンセプトにした「床」
最も賑わった江戸から明治期の風情を再現したというかまぼこ通りで、小田原の伝統的な商家の「出桁造り」(だしげたづくり)の店舗にかかる青い暖簾がひと際目を引く籠淸本店。
引き戸を開けて、中に入るときに目を落とすと、丸い石が埋め込まれているのが分かります。実は、この石は前浜である「御幸の浜」から持ってきた石。
「浜から店まで続いていることをイメージした」との言葉どおり、セメントと小田原近辺の砂を混ぜ合わせ、さらに御幸の浜の石を散りばめています。この辺りの砂は若干青みがかり、空間を生かすため、洗い出し(酸洗い)をすることにより、ゴツゴツした素材感が特徴です。
また、床のひび割れを防止するため蒲鉾型の「覆輪目地(ふくりんめじ)」を施しています。これはデザイン性だけではなく目地にひび割れがいく昔ながらの工夫で、さらに目地が交差する箇所にはデザインとして「トメ」を施しています。細部に至るまで日本伝統の技を駆使した職人のこだわりが詰まった床に仕上げられています。
真鶴の本小松石をイメージした上品なカウンター
素材感がある床とは対照的に、蒲鉾などの商品を置くカウンターは上品な仕上げ。高級石材である本小松石をイメージし、「研ぎ出し」と呼ばれる古くから流し台、公園のすべり台や階段手すりなどに用いられる技法ですべすべした温かみがある手触りが特徴です。また、角に丸みをもたせ、更に手業とは思えない見事な正面の研ぎ出しの技術はまさに職人技の腕の見せ所。
また、床との境で敢えて酸化鉄の差し色を施しモルタルの「金鏝抑え(カナゴテオサエ)」と呼ばれる技法で仕上げているところも見所のひとつです。ショーケース内の鳳凰の高台は格式高い黒塗りで重厚な「漆喰磨き仕上げ」。個包装の台も漆喰で仕上げられ、植物系染料の藍と酸化鉄顔料の緑と黒を使用し「小田原の深い海の中を表現している」のだとか。
漆喰と板張り天井の美しいコントラスト
今回の改修工事でこれまで格子状だった天井部分は元々板張りであったことが判明し、「創業当時の状態をご覧いただきたい」と板張りに戻したとのこと。また、損傷が激しかった漆喰天井部分も修繕し、ライトアップすることでデザインの美しさを強調。「お客様に目で楽しんでいただけたら」と石黒専務。
このほか、長年店内で飾れてきた鏡や時計なども一つひとつに歴史があり、小田原のまちに親しまれてきた同店の様子がうかがえます。
住居としても使用されてきたという母屋には、店舗部分だけでなく、奥や2階部分なども、これから数年かけて手入れし、地域に開いていく予定だと言います。
「お客様、地域の方に気に入ってもらえる空間になれば」と石黒専務。思いを語ってくれました。
鏡開きで祝う本店再建100周年
再建100周年を記念し、4月27日には鏡開きを実施、多くの市民がお祝いにかけつけました。鏡開きでは、小田原の酒蔵「HINEMOS」(ヒネモス)の「蜂龍盃」を用い、来場者に振る舞いました。石黒駒士社長(83)は「初心を忘れずに、お客様を大事にしていきたい」と話し、石黒太郎専務(51)は「支えられて迎えた今日。感謝しかない」とコメント。
また、伝統的な板付やチーズなどの4種の蒲鉾と「HINEMOS」の8銘柄の日本酒も提供され、来場者は日本酒とのペアリングも楽しんでいました。
タウンニュース人物風土記で紹介「(株)籠淸の専務取締役として、本店再建100周年事業を担う石黒 太郎さん」
タウンニュース小田原・箱根・湯河原・真鶴版2024年4月20日号で、石黒専務取締役を紹介しています。「伝統を進化させて守る」という語る 石黒専務の思いにクローズアップ。
タウンニュース小田原・箱根・湯河原・真鶴版2024年4月20日号
https://www.townnews.co.jp/0607/2024/04/20/729475.html