「あんこ屋営業中」。南藤沢から藤沢橋へ向かう道すがら、歯科が1階にあるマンションの入口で、ひらひらと揺れるのぼり旗がいつも気になっていた。店を訪ねると、1階の奥が倉庫や工場になっており、甘い匂いと湯気を立てながら、社長の二木(ふたつぎ)基臣(もとおみ)さん(55)が黙々と餡をねっていた。
平野製餡所は大正12年創業。当時は住居を兼ねた平屋だったが、平成3年に先代が今のマンションに建て替えた。現社長は先代の親戚で、総菜屋一筋で働いてきた二木さんを跡継ぎにと声がかかり、17年前、夫婦であんこ屋の道に入った。
本業は和菓子屋を中心に、パン屋や飲食店などへの卸し。だが「お客さんの注文に応えて」と、つぶやこし餡の他に、栗や安納芋、フランボワーズなどの変わり種も増やしていき、小売りもしている。
細々と行っていた小売りに光を当てたのが娘の泰子(ひろこ)さん(29)。一昨年から設置したのぼりも泰子さんの案だった。同時期からSNSであんこ屋の魅力を発信。昨年、2019年1月にはTV取材の反響でツイッターのフォロワー数が急増。小売りも日々の売り上げにつながるほどに伸びていった。
ツイッターは非公式だというが、「接客が得意な娘の働きは評価している」。餡を仕込みながら社長は静かに笑顔を見せた。泰子さんは「和菓子をもっとみんなに食べてもらうことが夢。おはぎや柏餅など、餡を通じて季節を感じてほしい」と、母譲りのにっこり顔で話した。