足柄平野から眺めると富士山横に見える「おにぎり」のような形をした山が印象的な、神奈川県南足柄市の「矢倉岳」(やぐらだけ)。標高870mと低山ながら頂上では富士山の大パノラマが楽しめる、親子でも登れる人気の山ですが、実は世界的にも珍しい地球活動の遺産が潜んだ山…ということでいざ矢倉岳へ!
- 箱根ジオパーク:地球活動の遺産を主な見所とする自然の中の公園「箱根ジオパーク」。箱根山の外輪山として2016年、南足柄市が編入認定。中でも矢倉岳は「世界最速級で隆起した山」とされる重要なジオサイト。
- 登山難易度:★☆☆(山頂手前の急登は覚悟を)
南足柄の矢倉岳は「ジオ目線」で登ると面白い
「南足柄ジオガイドの会」副会長の北邨順誠(きたむらじゅんじょう)さんに“ジオ目線”で矢倉岳を案内していただきました。「矢倉岳の登山道には普段なら見過ごしてしまうような地球活動の遺産があります。そこから推測できる奥深い歴史が面白いんです」。
- 南足柄市のジオサイト:矢倉岳、夕日の滝、足柄峠と足柄道、最乗寺と杉林ほか全8箇所。ヤマトタケルノミコトも通ったと伝えられている足柄峠は箱根峠より歴史が古いことなどからも、南足柄市が認定されたことで箱根ジオパークの歴史にも厚みが増した。
- 南足柄のジオガイドさんと登りたい:「南足柄ジオガイドの会」(南足柄市企画課)0465-73-8001へ。ガイド料5名500円(3時間)~。
足柄万葉公園~矢倉岳へ
【10時30分】足柄峠にある「足柄万葉公園」に駐車(約5台可)し出発。矢倉岳までは取材・休憩含み90分(通常1時間コース)。
南足柄市のジオサイトでもある足柄峠は、東西を結ぶ主要道として古事記にも登場するほど古い歴史があります。標高759mの足柄峠では故郷を離れた多くの人々が家族などに向け歌を詠んでいました。コース内では「足柄」という地名も登場する計7首の歌が楽しめます。
- メモ:万葉集に登場する約90種類の植物も植栽。因みに矢倉岳は、足柄峠を見張る「櫓(やぐら)」の様であることから名付けられたそう。
頭上に巨大な「溶岩」…!
しばらく歩くと直径約2~3mの巨岩が出現。「40~35万年前にできた狩川溶岩です。箱根火山が活動を始めた頃の溶岩ですね」と北邨さん。足柄峠でも見られる「金時溶岩」(35~30万年前)より古い溶岩が足柄峠から延びる尾根の高い所にある摩訶不思議な
- ポイント:矢倉岳を含む足柄山地の隆起に伴って狩川溶岩も隆起したと推測できる。
ちょっとスリルな一本橋
気持ちの良い林道が続くと思いきや一本橋に遭遇。奈落の底とまではいきませんが下は崖なので足元ご注意を。
グルグル…玉ねぎ状に風化
「はい、足下を見てください」。海底で小石や砂、泥などが堆積した「足柄層群」の柔らかい岩が円状に風化した「玉ねぎ状構造」です。まさに自然の芸術作品。
- メモ:矢倉岳は石英閃緑岩という深成岩を砂岩質の海底堆積層が囲んでい
ることから海底から隆起したことが解る。玉ねぎ状構造は、砂岩質の柔らかい石に現れやすい。
「山伏平」で休憩…急登に備えよ
【11時35分】足柄万葉公園を出発して約1時間で山伏平に到着。しっかり水分補給を。
- メモ:矢倉岳山頂まであと約30分。ここから一気に急登なので覚悟を。
急登続くよ、どこまでだ?
山頂まであと少しですが、地獄のような急登が続きます。世界最速級で隆起した矢倉岳の力強さが大地から伝わってくるようです。
- メモ:山頂付近には地下深くでマグマが冷え固まった、大きなゴマ塩模様の石「深成岩」あり。
矢倉岳登頂「世界に誇る?ジオサイト」
【12時05分】矢倉岳登頂(トイレなし)。富士山の絶景に大感動!急登の疲れも一瞬で吹き飛びます。南には箱根大涌谷の噴煙も確認でき、まさに「箱根ジオパーク」の中にいると実感。ジオ目線での矢倉岳についてより一層興味が湧きました。
- 矢倉岳のジオ的視点:貫入マグマが地下で冷え固まったもの(=深成岩)
が隆起と浸食によって地表に現れ、海底から高さ870mまで隆起。その地表に出現するまでの115万年というスピードが世界的に見ても珍しく「世界最速級」。115万年が〝わずか〟…地球を語るダイナミックな時間感覚。
外せる!【矢倉岳870m】登頂ボード
何て親切なサービス。手に持って富士山バックに最高の一枚を撮ろう!
- 南足柄市のポスターにも注目:富士山と対比させ『日本一?いやいや世界に誇る矢倉岳』とのキャッチでPR。
登山後記
「46億年の地球活動の片鱗を景色丸ごと楽しめるのがジオパークの面白さ」(北邨さん)。平穏な矢倉岳の佇まいからは想像できない地球の活動遺産がぎゅっと詰まった山でした。箱根ジオパークを語る上では外せない〝世界の名峰”へぜひ。