大規模災害時の避難場所をめぐり、川崎区内の一部町内会が川崎区役所の対応に不信感を募らせている。指定避難所が宮前小学校とされる中、身の安全を守るためにより距離が近い川崎競馬場を第一の避難場所と考える町内会は、区に対して「危機管理の見地に立って柔軟な対応をしてもらたい」と訴える。
川崎市は川崎区本町1丁目、本町2丁目、堀之内町、駅前本町、宮本町、砂子1丁目、砂子2丁目、東田町の指定避難所を宮前小学校にしている。同校は災害の危険から一時的に身の安全を守るための緊急的な避難場所にもなっている。
こうした中、川崎競馬場付近の町内会で組織する競馬場周辺9町会(本町1丁目、本町2丁目、本町2丁目東、堀之内、宮本町、榎町、富士見町、旭町1丁目、旭港)は、約20年前から川崎競馬場との話し合いで同競馬場を災害時の避難場所としてきた。区に対しても宮前小への避難は経路や距離の問題もあり、より安全な川崎競馬場への避難を主張している。
川崎競馬場は地震や大規模な火事の際の広域避難所(原則、屋外スペース)として指定されている。2019年6月の市議会では当時の危機管理監が「災害の状況に応じて施設管理者等との協力に基づいて避難することは可能」と近隣住民の競馬場への避難を認めている。
ただ、2年前の令和元年東日本台風の時、本町2丁目町内会前会長の深瀬欣之助さん(89)のもとには、区から「宮前小に避難所が開設されたが本町2丁目の人たちは誰も来ないのか」と連絡があったという。同町内会の白熊康陽会長(76)は「結局は宮前小に避難をと言っているのと同じ。国道15号を越えれば目の前に競馬場があるのに、暴風雨の中、年配者を連れて倍以上の時間をかけて、途中のハローブリッジ(歩道橋)も越えろというのか。かえって危険リスクが高くなる」と指摘する。区役所の危機管理担当も「安全が第一」と、競馬場への避難を認めるものの、原則的な対応をとる格好となった。
9町会は川崎競馬場との避難訓練も繰り返し行ってきている。また競馬場には毛布、食糧、水などの備蓄品を1日1000人×3日分の用意があるという。こうした現状も区に知ってもらいたいと、何度か避難訓練への参加を呼び掛けたが、これまで区が参加したことはない。区の担当者は「あくまで町会と川崎競馬場との自主的な訓練であり、区は参加する立場にはない」という。
白熊会長は「今後は高齢化も進み、避難がますます大変になる。区には9町会の避難場所は競馬場だとしっかり承知してもらいたい。町内会の実情などを考慮してもっと柔軟に対応できないのか」と訴える。