東慶寺(山ノ内)は、1285年8代執権・北条時宗の妻、覚山尼(かくさんに)により開かれ、以来、女性からも離縁ができる「縁切り寺」として知られてきた。また、ここにある水月観音坐像は、白衣を纏(まと)い、岩にもたれて水面(みなも)に映った月を見ている美しい姿で、日本では鎌倉周辺にしかない貴重な仏像である。
ここに咲く花といえば、初春の頃は梅。参道両脇に紅白の花々が咲き揃い、境内いっぱいに甘い香りが漂う。山門周辺では、早咲きの花桃や彼岸桜が、また寺務所敷地内では白木蓮(はくもくれん)が咲き出し、紅白のコントラストが美しい。さらに本堂前では、薄紅色の枝垂桜(しだれざくら)も咲き出し、境内は花盛りとなる。
初夏には、露座の釈迦牟尼の後(うしろ)で花菖蒲(はなしょうぶ)が咲き出し、梅雨を迎える頃には、山門前から参道にかけて、色とりどりの紫陽花が咲き揃う。さらに境内右奥の岩壁では、岩(いわ)煙草(たばこ)が薄紫色の可憐な花を咲かせる。山の北側に開けた立地から、ここに自生している、東慶寺ならではの花である。
秋には、松岡(まつがおか)宝蔵(ほうぞう)周辺で、白やピンクの秋明菊(しゅうめいぎく)が、また本堂前の枝垂桜の下では、濃紺の笹竜胆(ささりんどう)も咲き始める。さらに参道の右奥では、淡いピンク色の十月桜が楚々として咲く。
初冬の頃は紅葉。特に、本堂近くの楓(かえで)の赤や、宝蔵近くの銀杏(いちょう)の黄色は、どちらも鮮やかで美しい。
静かな谷戸に佇(たたず)む東慶寺。四季折々の花々のもとで、観音様が優しい微笑みをたたえてくれる。
石塚裕之