桑田佳祐さんとその故郷・茅ヶ崎に縁ある人たちにシリーズでインタビューする連載『サザンライブを待ちわびて』。第3弾と第4弾は、13歳からの熱狂的な大ファンで、桑田さん好きが高じて茅ヶ崎に移住してきた佐々木美里(旧姓・陳 美里)さん(47)と、大阪の高校時代の同級生で、同じく茅ヶ崎に移住してきた板倉聖子さん(46)の2人に話を聞きました。美里さん編に続いて、聖子さんのお話もどうぞ!
両親の影響でファンに「歌詞の意味も分からない頃から」
ファン歴は、小学生の頃から40年近くになるという聖子さん。
「よくあるパターンですが、両親がサザンファンで、車の中ではずっとサザンのカセットテープが流れていました。まだ子どもで、誰が歌っているのかも、歌詞の意味も分かりませんでしたが、こんな音楽聴いたことないな~と思っていました。桑田さんの声が心地よくて」と微笑みます。
「小学生の頃のバス遠足で、みんなで歌うレクリエーションの曲として『匂艶 THE NIGHT CLUB』(1982年)を提案したんですが、艶っぽい大人の歌詞すぎて、担任の先生から却下されたことも(笑)そんなきわどい歌詞であることも分からない年の頃から大好きでした。『耳年増』とか、サザンの歌詞でたくさん言葉を学びました」
「私も『とどのつまり』って言葉をサザンの曲で覚えた」と美里さんも笑います。
美里さんと同志に。授業の合間に「サザン愛」分かちあう
高校に入ると、他のクラスに「サザンファンの子がいる」とのうわさを聞きつけ、美里さんのもとへ。
「(美里さんに)『どれぐらい好きなの?』って聞いたら、すごい好きで(笑)授業の合間に、手紙のやり取りをして『お互いどんなに好きか』を競い合うように、サザンの話題で盛り上がっていました」
1995年8月。18歳の時には、美里さんとふたりで、大阪からみなとみらいで開催されたライブ「ホタル・カルフォルニア」へ。「桑田さんがいるステージからは遠く離れた席で、肉眼では豆粒ほどの小ささでしたが、モニターで見るはもったいないと思って、ずっと目を凝らして見ていました」と当時を懐かしみます。
「周囲は大人の男性ばかりでしたが、一緒になってくたくたになるまで飛び跳ねて盛り上がりました。ちょっぴり大人になったような気がして、くすぐったかったことを覚えています」
「歌も歌詞も声もライブも、すべて好き」
ファンといえども、その思いはそれぞれ。小学生の頃にバレンタインデーのチョコを贈ったり、たまにラジオにハガキを送ることもあったそうですが、「(美里さんとは)ベクトルが違うんですよね」
桑田さんの「人柄」に惚れ込んだ美里さんに対して、ミュージシャンとしての「楽曲の幅の広さ」に魅了されたという聖子さん。
おちゃらけた曲から、エロティックな歌詞、極上のバラード、はたまた反骨精神にあふれたメッセージまで…。サザンの奥行きのある楽曲の数々に惹かれるといいます。
「歌、歌詞、声、ライブ‥‥と、どれをとっても好き。こねくり回したような歌詞もありますが、名曲と言われる楽曲の歌詞は普遍的で、聴いた人の心にが揺さぶられるんだと思います」
先日リリースした新曲『Relay~杜の詩』は、神宮外苑再開発問題がモチーフになっていると言われています。豊かな自然環境を次世代へバトンをつなぐことの責任や、穏やかな話し合いやコミュニケーションの大切さを歌う楽曲です。
「この曲は、例えば、近くの公園の樹のことだったり、地球温暖化のことだったり、町内会で揉めている人であったり、ごみ問題だったりと誰が聴いても、きっと何かしら心にひっかかるんじゃないかな。世の中を風刺しながらも、『馬鹿でごめんよ』といって上手にバランスを取っている。だから、すんなり入ってくる。桑田さんはいろんな立場の人の気持ちが分かる方なんだと思います」
「新曲を出し続けるタフな精神力」に感服
「桑田さんは、年齢を重ねてますます格好よくなっているし、年とともに魅力が増している」と聖子さん。
「45年間、あんなに名曲を連発して評価も得ているのに、今もなお新曲をリリースし続ける精神力がすごい。ほかの大御所ミュージシャンは紅白歌合戦でも、昔のヒット曲を歌うけれど、サザンや桑田さんは絶対に新曲で勝負している。それなのに、大物ミュージシャン感のカリスマ性を出さずに、あえて〝普通っぽさ〟を醸し出しているのがいいですよね」と微笑みます。
多感な青春時代や結婚、子育てなど、人生のステージによって、「しばらく聴かない時期があったり、ライブから遠のいたこともありますが、やっぱりサザンが根底にある感じです」
茅ヶ崎へ移住「桑田さんは、茅ヶ崎のあたたかい風土で育まれた」
2016年ごろ、子どもが小学校に上がるタイミングで、都内から茅ヶ崎へ移住してきました。しかも、奇遇にも、すでに茅ヶ崎暮らしをしていた美里さんと同じ町内でした。
「特に茅ヶ崎でというこだわりはありませんでした。でも、茅ケ崎駅を降りて、街の見晴らしの良さや穏やかな雰囲気が気に入って。人と人との距離が近くて、子どもが泣いているとやさしく声を掛けてくれたり、道を尋ねたら一緒に付いてきてくれる勢いで親切に教えてくれる。街の人がやさしくて、温かいなとって。特に、長年茅ヶ崎に住んでいるようなおじいちゃんおばあちゃんたちが穏やかでやさしいと感じています。桑田さんの人柄や楽曲はこうしたあたたかい茅ヶ崎の街に培われたんなぁって」
茅ヶ崎ライブはひとり「喜びを噛みしめながら」
10年ぶりとなる茅ヶ崎ライブは、チケットが1枚だけ当たったそう。当たって大喜びというよりは「ダメもとで申し込んだので、安心したという感じ。良かったほっとしました」。
開催まであと数日。「チケットが当たった頃は日常生活に追われて、味わう時間もありませんでしたが、やっと実感が沸いてきました。当日は、ひとりで喜びをかみしめながら、会場までゆっくり歩きながら向かいます。その日だけは、日常生活や子育てから離れて、ひとりで泣いたり、ひとりで笑ったりしてライブを楽しみます」