約20年にわたり、広告やポスター、映像などの制作に携わってきたデザイナーの須川夏帆(すがわ なつほ)さん。東京で仕事と子育てに奮闘していた須川さんが、家族とともに茅ヶ崎へ移り住んだのは約2年前のこと。実は、当初は移住先の候補にも入っていなかった街でした。
偶然訪れた茅ヶ崎で感じた街の明るさや、人との距離の近さ。これまでの仕事を振り返りながら、茅ヶ崎での暮らしと、これからの挑戦についてお話を伺いました。

デザインと歩んできた20年。朝ドラのポスターも
須川さんがデザインの道に進んだのは、高校卒業後のこと。デザインを専門的に学び、東京のデザイン事務所に就職しました。以来、約20年。ポスターやチラシ、カタログ、パンフレットなど、さまざまなグラフィックデザインを手掛けてきました。
「当時は夜遅くまで仕事をすることも多く、夜中に印刷会社の人がデータを取りに来て、そのまま入稿するようなことも珍しくありませんでした」
数ある仕事の中でも、特に思い出深いのが朝のテレビドラマで使われるポスターの制作業務。出演者の希望で、写真家の瀧本幹也さんが撮影を担当。須川さんにとって、憧れの写真家との仕事でした。
「瀧本さんの写真はもともと大好きだったので、一緒に仕事ができると聞いたときは本当に驚きました。すごく緊張したのを覚えています」
そんな須川さんにとって、最近うれしい出来事がありました。茅ヶ崎市美術館で開催された瀧本さんの写真展に足を運んだのです。かつて一緒に仕事をした写真家の作品に、今度は暮らしている街の美術館で出会う。展示を眺めながら、当時の思い出もよみがえってきたそうです。

須川さんのインスタグラムから。NATSUHONPOという屋号でデザインの仕事をしています。
紙から映像へ。変わり続けるデザインの仕事
約20年というキャリアの中で、須川さんの仕事も大きく変わってきました。
「以前はカタログやポスターなど、紙の仕事が多かったんですけど、最近は本当に動画ばかりですね。ここ数年は、紙媒体をほとんど作っていないくらいです」
動画制作を始めたのは10年ほど前。独学で編集技術を身に付け、仕事の幅を広げてきました。
「グラフィックだけでは難しい時代になってきているので、いろいろなことができないといけないなと思っています」
そんな須川さんは現在、2027年に市制施行80周年を迎える茅ヶ崎市の記念動画制作にも、デザイナーとして携わっています。これまで東京を中心にさまざまな企業や作品のデザインを手掛けてきましたが、今回は自分が暮らす街の歴史や魅力を伝える仕事。移住をきっかけに生まれた地域とのつながりが、新たな仕事の機会にも結び付いています。
現在はデザイン事務所に所属しながら、個人でも仕事を受けるなど、少しずつ活動の幅を広げている須川さん。長年培ってきた経験を生かしながら、これからは地元・茅ヶ崎でも仕事ができる機会を増やしていきたいと考えています。

デザインを手掛ける市制施行80周年記念動画のポスター。市民とともに80年の茅ヶ崎の歩みを振り返る内容になっています。
「海まで歩いて行けるんだ」予想外だった茅ヶ崎への移住
須川さんが茅ヶ崎に引っ越してきたのは、第二子が生まれた頃のこと。それまでは東京の目黒区、駒沢公園の近くに暮らしていました。転機となったのは、コロナ禍による働き方の変化です。
「夫も私もパソコンを使う仕事なので、リモートワークができるようになったんです。それなら、東京に住んでいなくてもいいのかなって」
家族が増え、もう少し広い住まいを探し始めたものの、都内では部屋が一つ増えるだけで家賃も大きく上がってしまいます。そこで、東京以外にも目を向けるようになりました。最初に考えていたのは鎌倉。古民家にも興味があり、実際に物件を見に行ったそうですが、どこかしっくりこなかったといいます。そんなとき、最後に訪れたのが茅ヶ崎でした。
「茅ヶ崎は本当にノーマークだったんです。でも、駅を降りたときから、なんだか街が明るいなって。雄三通りの雰囲気もすごく良かったんですよね」
さらに、内見した物件から海まで歩いて行けることに気付き、家族で海へ向かってみることに。
「歩いて海に行けるっていいなって、すごくテンションが上がっちゃったんですよ。夫も走るのが好きなので、海沿いを走れるのもいいねって」
駅前の明るい雰囲気、歩いて行ける海、都内へのアクセス。さまざまな条件が重なり、移住を決意しました。
「いろんなパズルがうまくはまった感じでした」
心配していた保育園にも運良く空きが見つかり、家族の新しい暮らしが始まりました。

当初は移住先として考えていなかった茅ヶ崎。偶然の出会いが、須川さんのその後の暮らしを変えるきっかけとなりました。
お店の人が手を振ってくれる。茅ヶ崎で感じた人の温かさ
茅ヶ崎に暮らし始めて印象的だったのは、人と人との距離の近さでした。
「東京にいた頃は、良く言えばさっぱりした付き合いが多かったんですけど、茅ヶ崎に来たら、保育園のママ友からすぐにバーベキューに誘ってもらったり、海で一緒に遊ぼうって声を掛けてもらったりして」
子どもたちを連れて海へ行き、大人は飲み物を片手におしゃべり。そんな気取らない時間が、日常の中にあるといいます。街のお店との関係にも、東京との違いを感じています。
「雄三通りのお店なんかでも、何度か行くと顔を覚えてくれるんです。お店に入らなくても、通り掛かると手を振ってくれたりして」
最近は、雄三通りにできたおにぎり屋さんがお気に入り。子どもたちと一緒に訪れることもあるそうです。一方で、子育てをする中で感じる課題もあります。
「公園はあるんですけど、遊具が少ないなって。広場みたいな公園が結構多いですよね」
休日には海で遊ぶほか、遊具が充実した平塚市総合公園などへ足を延ばすことも。茅ヶ崎の魅力を楽しみながら、子育て世代ならではの視点で街を見つめています。

5歳と2歳のお子さんを育てながら、デザイナーとしてのキャリアを積み重ねる須川さん
この街で、これからの自分らしい働き方を
仕事と子育てに忙しい須川さんですが、最近新しく始めたことがあります。それは、友人と一緒に制作するポッドキャストです。実は須川さん、大のラジオ好き。
「20代、30代の頃は、仕事で深夜まで作業することが多くて、そのときはずっとラジオを聴いていました。ラジオには本当に支えてもらってきたような感じがあるんです」
今では、自分が話す側にもなりました。
「人と話すのも、話を聞くのも楽しいんですよね。それって、自分の仕事にも通じるところがあるなと思っていて」
デザインの仕事では、相手の考えや思いをくみ取り、それを形にしていくことが求められます。ラジオという新しい楽しみの中にも、仕事との共通点を感じているようです。
東京で積み重ねてきたデザイナーとしての経験と、茅ヶ崎で出会った新しい暮らし。須川さんはこの街で、これからの自分らしい働き方を少しずつ描き始めています。















