時代をこえて、美味探求
○…NHK大河ドラマでも注目が集まる「鎌倉殿」にスポットをあて、当時の携帯食などを再現してみせた。普段は参集殿の「青葉」で腕を振るうが、800年前の献立を探ったのは自身も初の経験。まずは資料を読みこみ、当時の食材の豊かさに驚かされた。「私たちが食べている海山の幸だけでなく鶴や鷺まで食べていたようです」。当時の調理は醤(ひしお)などを使い、現代の調理法とまったく違う。とてもそのままでは提供できない。時には専門家に試食してもらいながら試行錯誤し、現代風のアレンジを加えた。
○…中学卒業後に板前を目指し、草津の旅館で下積み生活を送った。右も左も分からず、激務の毎日に「やめよう」と思ったことは数知れず。最初は野菜の皮むきや皿洗いだったが、次第に魚が上手におろせるようになったりと、調理の面白さが上回った。ある時親方に「何か作れ」と賄いを任された。母がよく作ってくれた「三平汁」を出したところ「美味いじゃないか」とお代わりが続出。この小さな手ごたえが今に続く原点になっている。その後、様々な料理店やホテルを渡り歩き、いつしか肩書きは「料理長」に。15年前から参集殿で腕を振るっている。
○…コロナ禍の影響も大きかったが、秋から活気が戻ってきた。「鎌倉殿のお弁当」もすでに観光客の予約が入っており、七五三プランはコロナ禍以前のような好評だ。「『おいしかった』という声と信頼に、応えていきたい。小鉢ひとつ、お新香一皿にこだわらねば」と自分に刻むようにつぶやく。1日中立ったまま全力を尽くし、座るのは帰路の電車に乗った時。家では一人の父親に戻る。台所には決して立たず、奥さんの手料理に癒されている。