三崎港そばで2019年8月にオープンした「朝めし あるべ」の店主・菊地未来さんが5月末で卒業した。2代目を受け継ぐのは、一つ年下で同姓同名の菊地未来さん。「ややこしいので私を『みくいち』、彼女を『みくに』と呼んで下さい」。奇跡的とも言うべき巡り合わせに当の本人も驚きを隠しきれない。それぞれが進むべき新たな道とは――。
「朝めしは”おまけ”だったんです」。開口一番、菊地さんはそう振り返る。
移住相談や創業支援を展開する合同会社MISAKI STAYLEの代表として「いつでも人を受け入れられる施設があれば」と、かつて船宿だった築60年以上の木造2階建てを改修。2階に2部屋を用意し、移住を検討する人が気軽に生活体験できる場を作った。1階は飲食店経営を目指す人に貸し出し。ただ、オープン日が刻々と迫るにつれて「うまくいかなかったら収益に繋がらないかもしれない」という不安も募った。
そこで急遽、一般食堂と弁当屋の営業許可を取得。早朝から働く魚市場関係者や三崎朝市を訪れた観光客に朝食を提供することを思い付いた。
「朝めしなんて家で食べるよ」。周囲からの声や奇異な目にも意に介さず、最初の1カ月は午前5時から10時まで休まず店に立った。それでも1人も来ない日もあった。
転機を迎えたのは、テレビ番組への出演だった。1人で店を切り盛りする姿やベーコンエッグ・アジの干物など庶民的な定食を看板メニューにしていることが放送されると大勢の客が訪れるように。雑誌などの取材も増え、押しも押されぬ人気店となった。
新事業に注力
あるべで働く傍ら、空き家の有効活用や廃棄・規格外野菜を使った加工品開発など、三崎の賑わい創出のために満身創痍で駆け回っていた菊地さん。しかし、すでに体力の限界だった。そんな昨夏、歳が近く名前も性別も同じ菊地さんが「トライアルキッチン」を利用しにやって来た。「不思議な縁を感じただけでなく、実際に料理が美味しい。三浦の食材も好きでいてくれる」。一緒に過ごす時間が増えるうちに切っても切れぬ腹心の友となり「仕事を辞めてきた覚悟。この子しかいない」とMISAKI STAYLEのもう1人のメンバーとして店主の席を譲った。
「ここまで成長できたのも常連さんのおかげ。コンテンツは意表をつけばつくほど面白い。これからも三崎エリアの課題を斬新なアイデアで解決していきたい」。日常にしっかりと根を下ろした視点で敢然と立ち向かっていく。