「先に坊主頭になったよ」 行動で示した乳がんの友人へのエール<川崎市在住・城所佑佳里さん>

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「先に坊主頭になったよ」 行動で示した乳がんの友人へのエール<川崎市在住・城所佑佳里さん>
坊主頭になった直後の城所さん=本人提供

一番の友人

 川崎市内在住で、らいふ・くつろぎ稲田堤などの高齢者施設を運営する(株)らいふでエリアマネージャーとして働く城所佑佳里さん(37)。城所さんは19歳で出産、そのとき、ママ友サークルで出会った友人がいた。友人も18歳で出産し、年齢も近かったことから、すぐに仲良くなった。「若くして出産や育児に奔走した2人だからこそ、分かり合える部分がたくさんあった」と当時を振り返る。育児の悩みなどをほぼ毎日、電話やメールで話し、ストレスを発散していた2人。お泊り会なども企画して、ママ友も増えていった。「一番大変な時期を、楽しく育児することに変えてくれた存在」と笑顔を見せた。

 その後、子どもが成長するにつれて、会う機会は減ったが、電話などで頻繁に連絡をする仲だった。「子どもの進路のことを話したり。今までで一番仲良くしている友人」と城所さんは話す。

何も言えなかった

 2023年5月下旬、「久しぶりに飲みに行こう」と城所さんが誘うと「体調が悪くて飲むのは難しい」と返答があった。そのため、一緒に食事をすることになった。久しぶりの再会はさまざまな話で盛り上がった。そんななかで「実はさ、私、乳がんなんだよね」と突然打ち明けられた。

 3日後から抗がん剤治療が始まるのだという。城所さんは、言葉が見つからず、何も言えなかった。

 帰宅しても友人の話が耳から離れず。メールで励ましの言葉を送ろうと思ったが、書いては消してを繰り返した。

「行動で示そう」

髪を切る前の城所さん(上)と切った髪

 友人が一番気にしていたのは治療で髪の毛が抜けることだった。「言葉じゃなくていい。行動で示そう」と思い、翌朝、美容室を訪れた。

先に坊主頭に

 「坊主頭にしてください」。そう美容師に告げた。最初は驚いた美容師も経緯を聞いて「似合ってますよ」と言った。

 翌日の夜、大雨の降る中で、車で友人宅を訪れた。「話したいことがあるから外に出てきて」。城所さんはパーカーのフードを被っており、坊主頭になったことに友人は最初気が付かなかった。友人は「急にどうしたの」と問いかけた。それに対して「この前は、言葉が見つからなくて、何も言えなくてごめん」と泣きながら友人に謝った。その後、「私なりに、行動で示した」とパーカーのフードを脱ぎ、坊主頭を見せた。

 「冗談でしょ」と友人は笑いながら、ぼろぼろと泣いた。「先に坊主頭に私がなったから、毛が抜けることを恐れないで、明日からの抗がん剤治療、頑張ってよ」。友人は「ありがとう」と言い、頑張れる勇気をもらったと城所さんに伝えた。その話を聞いて、友人の夫も坊主頭にしたという。友人は副作用と戦いつつも回復していった。1カ月後、2人で会って、坊主頭を見せあい笑った。

感じた偏見の目

ウィッグをつけ会話を交わす城所さん(右)

 城所さんはウィッグを11種類購入。洋服などに合わせて、ファッションとして楽しんでいる。だが、坊主頭で電車や街中を歩くと、露骨に笑われたことや許可なく写真を撮影されることも経験した。「私は周りを気にしないけど、病気で仕方なく坊主頭になった人もいる。偏見の目で見てくる人がいることに気付かされた」と語気を強めた。

偏見のない日本社会に

 高齢者施設内では「坊主頭、とっても似合っているよ」「そのウィッグだと、雰囲気だいぶ変わるね」と優しい言葉をかけられるという。施設の90代の女性が「このウィッグいいね」と城所さんの髪にふれる光景もあった。

 「さまざまな人がいる。笑ったり、偏見の目で見ない、そんな日本社会になってほしい」と思いを込めた。

住所

神奈川県川崎市多摩区

公開日:2023-09-14

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