この連載は月1回、「ふたまたがわ歯科口腔外科」の中谷逸希院長が気になるお口のあれこれについてわかりやすく解説してくれるコーナーです。
今回は、歯科治療後に致死性発作をもたらしうる病気「遺伝性血管性浮腫(HAE)」についてお話します。
HAEとは、主にC1インヒビターというタンパク質の遺伝子変異に起因する非常に稀な遺伝性疾患で、皮膚や粘膜など全身の様々な部位に突然の腫れやむくみが現れたり、原因不明の腹痛が起こる病気です。特に皮膚、消化器官、そして気道に影響を与え、気道が腫れると呼吸困難を引き起こし、命に関わる危険性があります。HAEの発作は精神的・肉体的ストレスや外傷などの刺激が引き金となり、症状の重さや腫れる場所は様々です。
日本にはHAEの潜在患者が約2500人いるとされていますが、診断されているのはそのうち約500人に過ぎません。原因不明の腫れや腹痛が繰り返されるため、ただのアレルギーとされることも多い病気です。治療には、発作予防の薬物療法や、発作が起きた際に迅速に対応できる薬が使用されます。
歯科治療では、外傷やストレスがHAEの発作を誘発する可能性があるため、特に注意が必要です。抜歯や外科的処置を行う際には腫れのリスクが高まるため、不明な腫れを繰り返したことがある方は事前に必ず病歴を口腔外科医に伝えることが重要です。
治療前に十分な情報共有を行い、安心して治療を受けられる環境を整えることがとても大切な疾患です。