NEW

「忘れていたのは、こっちだった」子育て日記・その20

シェアする
「忘れていたのは、こっちだった」子育て日記・その20

夕食の時、子どもが突然言いました。

「前にさ、電車乗って大きい公園行ったよね。」

「行ったっけ?」「行ったよ。」

まったく覚えていません。

「池があって、鳥がいたところ。」

うーん。

「帰りにアイス食べた。」

あ。少し出てきました。

「何味だった?」「チョコ。」

そこまで覚えてるの?
子どもの話を聞いているうちに、少しずつ景色が戻ってきました。

暑い日でした。駅からけっこう歩きました。
公園で走り回って、こちらはベンチに座っていました。池には確かに鳥がいました。
そして帰り道。アイスを買いました。

「あの時さ。」

まだ続きがあります。

「アイス落としたよね。」

そうだ。落としました。買ったばかりのアイスを、見事に地面へ。大泣きでした。

そこまで思い出しました。

「それで、もう一個買ってくれた。」

はいはい。完全に戻ってきました。不思議です。
忘れていたはずなのに、一つ思い出すと次々出てきます。

鳥。ベンチ。暑かったこと。溶けたアイス。泣いている顔。あの日の帰り道。

「よく覚えてるね。」

そう言うと、

「覚えてるよ。」

普通の顔で答えました。本人にとっては、忘れるようなことではなかったのでしょう。
少しだけ嬉しくなりました。すると、

「あと、その日怒られた。」

え。

「なんで?」「走っちゃダメなところ走ったから。」

そこも覚えているのか。できればアイスあたりで終わってほしかった。

「すごい怒ってたよ。」

細部まで保存されています。記憶というものは、なかなかこちらの都合よくできていません。

その夜、昔の写真を少し見ました。

忘れていた日が、いくつもありました。
忘れていたのは、出来事ではなく、こっちの方だったようです。

あなたにも、誰かの一言で突然戻ってきた景色はありますか。

『へんてこ子育て日記』はこちら

住所

神奈川県横浜市

公開日:2026-10-05

関連タグ