夕食の時、子どもが突然言いました。
「前にさ、電車乗って大きい公園行ったよね。」
「行ったっけ?」「行ったよ。」
まったく覚えていません。
「池があって、鳥がいたところ。」
うーん。
「帰りにアイス食べた。」
あ。少し出てきました。
「何味だった?」「チョコ。」
そこまで覚えてるの?
子どもの話を聞いているうちに、少しずつ景色が戻ってきました。
暑い日でした。駅からけっこう歩きました。
公園で走り回って、こちらはベンチに座っていました。池には確かに鳥がいました。
そして帰り道。アイスを買いました。
「あの時さ。」
まだ続きがあります。
「アイス落としたよね。」
そうだ。落としました。買ったばかりのアイスを、見事に地面へ。大泣きでした。
そこまで思い出しました。
「それで、もう一個買ってくれた。」
はいはい。完全に戻ってきました。不思議です。
忘れていたはずなのに、一つ思い出すと次々出てきます。
鳥。ベンチ。暑かったこと。溶けたアイス。泣いている顔。あの日の帰り道。
「よく覚えてるね。」
そう言うと、
「覚えてるよ。」
普通の顔で答えました。本人にとっては、忘れるようなことではなかったのでしょう。
少しだけ嬉しくなりました。すると、
「あと、その日怒られた。」
え。
「なんで?」「走っちゃダメなところ走ったから。」
そこも覚えているのか。できればアイスあたりで終わってほしかった。
「すごい怒ってたよ。」
細部まで保存されています。記憶というものは、なかなかこちらの都合よくできていません。
その夜、昔の写真を少し見ました。
忘れていた日が、いくつもありました。
忘れていたのは、出来事ではなく、こっちの方だったようです。
あなたにも、誰かの一言で突然戻ってきた景色はありますか。












