「明日の遠足、晴れるかな?」「今日は気温が上がるみたいだから熱中症に気を付けよう」「午後から雨がふるからカサを忘れずにね」。そんなみなさんの生活に密着したお天気に関する情報を発信しているのが、ここ「横浜地方気象台」です。
横浜地方気象台とは?
横浜地方気象台は気象庁の地方組織の一つで、天気や気温、湿度、日照時間、降水量、風の向きや速さといった気象観測や地震の観測、防災に関わる注意報や警報の発表などを行っています。1896年(明治29年)8月1日に神奈川県測候所として、横浜市中区海岸通りに設立。関東大震災によって建物が全て焼失し、1927年(昭和2年)に現在の場所=横浜市中区山手町99=に建設されました。2009年には新市庁舎が増築されています。
場所は、港の見える丘公園から外国人墓地に向かう間の丘の上、閑静な住宅地にあります。以前は一般公開していましたが、コロナ禍で今はお休み中…ということで、今回記者が特別に施設見学をさせていただいた様子をレポートします。(取材日/2021年6月23日)※このレポートは、こどもタウンニュースよこはま版7月号との連動企画です
いざ、施設見学へ
施設見学は本庁舎からスタートします!
入り口に入ってまず驚くのが、この歌に出てきそうな「大きなのっぽの古時計」。今は動いていないそうですが、昭和初期の面影を残すオブジェとして置かれています。
広報を担当する気象情報官・秋田健司さんが案内してくれました。
記者「その飛行機、入り口にもありましたよね?」秋田さん「これは飛行機ではないんです(笑)。風車型風向風速計といって、風の向きや速さを測るものなんですよ」
展示コーナー(1・2階)
1階は天気に関するパネルや昔の気象測器など、2階は地震など防災に関するパネルが展示がされています。
旧所長室
気象台の建物の歴史的価値を紹介するパネルや模型などを展示
新庁舎建設時に出てきた明治のレンガとジェラールがわら。昔使っていた「横浜地方気象台」の看板も展示されています。
旧応接室
2階の「旧応接室」は当時の雰囲気を忠実に再現しています。
観測予報現業室
本庁舎から渡り廊下でつながる新庁舎にある「現業室」は、見学コースの上から見ることができます。ここから1日3回(5時、11時、17時)、「予報官」と呼ばれる人が神奈川県の天気予報を発信しています。
ふと横を見ると「お天気相談室」という看板が。天気に関する質問にこたえる場所だそうで、まだ家庭にスマホやパソコンなどインターネットがなかった時代には、夏休みが終わる間近の子どもたちから「夏休み中の天気を教えて下さい!」という問合せも多かったそうですよ。
~通常の見学ルートはここまで~
「お天気フェア」などのイベント時のみ公開している場所も、特別に見せていただきました!
地震計室
地震計室の入り口は密閉性を高めるため、二重扉になっています
建物の振動を拾わないように、コンクリート台と床の間に少し隙間が空いています。奥の台の上にある黒い箱が地震計。横浜市中区で発表された震度はこの装置で測定したものです。
資料室
屋上に行こうと3階に上った際、見せていただいた資料室。昔使われていた気象測器がたくさん並んでいました。
これは「雨量計」。正式名称は転倒ます型雨量計です。上部から雨水が0.5㎜入るごとにシーソーのような受け皿が「カタン」と左右に傾くため、その傾いた回数で雨の量を測定するそうです。思ったよりアナログな構造!気象庁では全国で1300か所ほど設置しています。実際には左側の筒状のものが右側の転倒ますにかぶさり、細い方が夏用、太い方の冬用は雪などを溶かす装置が付いています。
観測が始まったころに使われていたという「毛髪湿度計」。梅雨の時期など髪が湿気でボワッと広がることがありますが、それと同じ考えで髪の毛の伸縮により湿度がどの位あるか測る機械なのだそう。機械の右横にある金網箱の中に何本か束ねた髪が入っていました。
眺めが良い屋上へ
気象台では長年、測器の観測データと、職員が数時間おきに雲や目標物が肉眼で見えるかどうか「視程」を確認する「目視観測」を組み合わせて観測していましたが、2019年2月から気象衛星や気象レーダーなどの機械による完全自動化になりました。
「今は人の目による観測は行なっていませんが、2年ほど前までは毎日3時間ごとに屋上に上がって雲の様子や見通しなどを確認していました」。
見通しを確認する際に必要な目標物は誰にでもわかるように、マリンタワーやヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル、ランドマークタワーといった形に特徴のある建物のほか、丹沢の山や富士山、千葉の房総半島なども目印にしていたそう。
横浜の景色や空の様子が一望でき、開放感があってとても気持ちがよかったです。ここで1日中、のんびり雲の様子が見られたらどんなによいでしょう…。目視がなくなった今、屋上にあがる職員はほとんどいないと聞き「もったいない!」と感じる位、素敵な場所でした。
屋外にも見どころがいっぱい!
露場
気温・湿度・降水量・日照・積雪などは屋外の「露場」で観測。天気予報番組などで提供される横浜の気温や積雪などは、ここで観測された数値が公表されます。
このレンガづくりの井戸は、気象台が立つ前にあったアメリカ海軍病院で使っていたものだそう。本体は新庁舎の地下にあり、今も水が湧き続けているとか。深さが25mもあったので、その上部を切り取ったものが庭に展示されています。
山手に水が引かれたのは明治31年から34年ごろだと言われ、それ以前はこうした井戸が人々の生活を支えていました。気象台の近くにある港の見える丘公園フランス山地区にもレンガづくりの井戸が展示されているので、散策がてら見に行ってみるとよいですね。
横浜の桜の開花宣言は、ここから発信!
敷地内にたくさん植えられた木や花。実はこれは観賞用ではなくて「標本木」といい、開花宣言などに使われるもの。気象台では現在、うめ、さくら、あじさい、すすき、いちょう、かえでといった春夏秋冬6種類の「生物季節観測」を行っています。※6種類になったのは2021年~。以前は約20種類ほど観測を行っていました
桜の開花宣言は有名ですが、ススキも開花宣言していたとは!
取材した日はあじさいの時期。今年は観測至上最も早い6月2日(平年値は6月12日)に「開花宣言」されました。
私たちが「花」と思っている部分は実は花ではなく、「装飾花」と呼ばれるガクの部分。実はアジサイの開花宣言は、装飾花で隠れているこの真花=写真=の開花をもって、発表されているのです。
歴史的価値ある建物も必見!
横浜地方気象台の魅力は、お天気に関することだけではありません。
向かって左が増築された新庁舎、右が本庁舎
玄関の柱やひさしに直線を組み合わせた幾何学模様が見られるなど、1920年~1930年頃に流行したアール・デコ調の細部装飾が特徴で、1927年(昭和2年)に完成。現存する日本の気象台建築として3番目に古い歴史があり、横浜市指定歴史的建造物と横浜市指定有形文化財になっています。
階段や床など室内の至るところに木の温もりを感じます。
新庁舎は2009年に完成。有名な建築家・安藤忠雄さんの設計です。現代的でモダンな建物ですね。「新旧どちらも建築物としての価値が高いので、建物も楽しんでもらえたら」と秋田さん。
この石壁は、山手地区に特徴的な「ブラフ積み」と呼ばれるもの。周辺の西洋館などとともに外国人居留地の面影を残しています。
気象台の建物は山手地区周辺の風景にすっかり溶けこんでいるので、ハマっ子でも意外と気象台があることを知らず「こんなところにあったんだ?!」と驚かれることが多いとか。「施設公開休止中の今も、標本木などがある屋外エリアは立ち入りOKです。コロナが落ち着いたら、夏休みの”お天気フェア”や施設見学も再開したいですね」とのこと。横浜観光がてら、ぜひ訪れてみてください!