救急出動は年々増加、2023年は過去最多
横浜市の2023年の救急出場件数は、前年比1万550件増の25万4636件で、過去最多を記録しました。1日当たりの出場件数は698件(前年比29件増)。2分4秒に1回救急車が出動していることになります。そのため、10年前に比べ、現場到着まで2分延伸しており、1分1秒が重要な緊急事案に影響が出る状況になっています。
- 都筑区も例外ではなく、前年に比べ約700件増加。18区中3番目の高い伸び率を記録しました。そんな過酷な状況の中、区民の安全・安心を守るため、日夜奮闘している若手救急救命士の方に、仕事に対する思いや、救急救命士としての使命感、区民の方へのメッセージなどを伺いました。
「女性隊員さんで良かった」の言葉を胸に
藤原葵さん(25)は、消防署本署所属。岩手県出身で、救急救命士として採用された4年目の隊員さんです。 お姉さんが看護師をしていたことから、医療関係に興味があった藤原さん。「体を張って、人を助ける仕事がしたい」と救急救命士を志望したそうです。
横浜市消防局も女性隊員が増えましたが、それでもまだ全体の4・5%。その中でも若手職員の一人です。「女性隊員はまだ少ないので、お子さんを抱える女性や高齢の傷病者の方から『女性の隊員さんが来てくれてよかった』の声をいただくとやりがいを感じます」と笑顔で語ってくれました。
都筑区総合庁舎に併設している本署からの出場は、他区に比べ若い世代が多く居住していることやセンター南駅が近く、大型商業施設も多いことなどから、小さな子どもに関する案件が多いといいます。「異物を誤って飲んでしまったり、発熱、お母さんが見ていない所でのケガなど」。また大きな幹線道路が多く、下り坂も多いため、交通事故が発生すると重大事故になるケースが目立つそうです。
傷病者と病院の板挟みに
一方で、緊急ではない案件で、救急車の要請も実際にあるといいます。「『紙で指を切った』という事案で救急車を呼ばれた方もいました。救急車は要請があれば出場しますが…」と困惑の表情をうかべて語ってくれました。実は、病院からも「救急でないので」と中々受けいれてもらえないため、両者の板挟みになることもあるそうです。
これからの季節、増えると予想される熱中症。こまめな水分補給や室内の適切な温度管理などで、予防ができます。特に夏場は、救急車の出場件数も多く、受け入れ病院を探すのにも、時間がかかるそうです。「大量な発汗や吐き気、倦怠感などは他の病気の疑いもあるので」と前置きしたうえで、「まだ大丈夫と思っていると、身動きが取れなくなる可能性があるので、動けるうち、または付き添う人がいるうちに病院へ」とアドバイスしてくれました。
「横浜1の接遇」を目指して
2023年4月入局の木下蒼さん(24)は、2024年の4月から川和消防出張所の救急隊に配属になりました。
救急救命士を目指したきっかけは、陸上クラブに所属していた小学生のころ。救命士の資格を持つ監督・コーチが東日本大震災の際、被災地へ支援活動に出かけていたそうです。現地での活動の様子を聞かせてもらう中で、「自分もいつか救急車に乗って働きたい」と考えるようになりました。両親も医療従事者だったので「心のどこかで目指していたのかも」と振り返ります。
出張所のある川和地区は東名高速道路の入口があるため交通事故での出場が多いそうです。地区内には小さな町工場や福祉施設が多く、労働災害や高齢者の持病の悪化、発熱等での出場が多いのも特長です。
また大型ショッピングモール「ららぽーと横浜」があり、小さな子ども連れで来店した人からの要請もあるといいます。
「横浜1の接遇を目指している」という川和出張所。緊張すると早口になるという木下さんは、先輩隊員をお手本に、傷病者に対する際はゆっくり話すように心がけているそうです。「やりがいを感じ、毎日が充実しています」と語ってくれました。
予防できる救急事態
高齢者の多い地域の特性を踏まえ、木下さんは「救急搬送に至る事案は予防できる」と話します。
「例えば、高齢者の室内での転倒等は、大事につながります。これは部屋の整理整頓をすることで、未然に防げる可能性があります。また高齢者は迷惑をかけまいとギリギリまで我慢して、症状が悪化してから救急車を要請するケースがあります。これも、気になる症状があれば、早めにかかりつけ医に相談してほしいです」と呼びかけます。
これら細かい積み重ねが、重症化を抑え、命の危険から身を守ることにつながるだけでなく、緊急を要する人のため、救急車の適正利用につながります。
過去には「3日前から発熱があり、病院を予約したので搬送してほしい」との要請があったといいます。「3日間のうちに、自ら来院するチャンスもあったはずなんですが…」(木下さん)。
「消防」と「救急」心構えは一緒
2023年7月から北山田消防出張所勤務となった藤森翔也さん(25)は入局5年目。中学のころから「救急隊ってかっこいいな」と興味を持ち、高校に進学すると自分で救急隊員になる方法を調べ、二十歳の時に資格を取ったそうです。約3年半の消防隊勤務を経て、念願の救急隊配属となりました。
「人と関わりが深い、寄り添う仕事。やりがいを感じます」と語る藤森さん。「消防と救急で扱う事案は異なりますが、心構えは一緒です」と目の前の事象に真摯に向き合います。
閑静な住宅街が広がる北山田出張所周辺は、川崎市との市境が近いということもあり、川崎市や都内の病院へ搬送することも多く、「移動範囲が広いですね」と教えてくれました。
『早く病院に運んでほしい』と思う傷病者や家族の要望に応えるために、できる限り滞在時間を短くし、迅速な搬送を心がけているといいます。
冷静な判断を
一方で、緊急を要する人のためにも、救急車の適正利用を呼びかけます。「誰もが、身体の異変など気になることがあれば病院に行くと思う。その時に『自分は今、自力で病院に行けるかどうか』の判断を冷静にしてもらえれば」と藤森さんは理解を求めました。
ハードな現場、迷ったら「♯7119」
横浜市消防局は5月に、緊急性のある事案に確実に対応し、市民が安心できる救急体制を維持していくため「予防救急等推進プロジェクト」を立ち上げました。これは病気やケガを未然に防ぐ取組や救急車の正しい利用方法等について市民への普及啓発に取り組むものです。
都筑区内の1日の出場件数は約30件。救急車4台で対応しており、平均7〜8回出場しています。病院へ搬送して消防署へ戻る途中に、出場指令がかかり、署に戻らずに次の現場に行くこともあるそうです。
ただ、出場要請の5割近くが、入院を必要としない軽症事案だそうです。救急車はあくまで命を守る「救急搬送」が目的で、「移動手段」ではありません。
都筑消防署では、「救急車を『呼ぶ』か『呼ばない』か、見極めの判断ができないときは「♯7119」をダイヤルし、一呼吸おいてほしい」と呼びかけます。「♯7119」に連絡すると「救急受診できる病院・診療所」や「救急車を呼ぶべきかどうか」などが電話相談できます。ぜひご活用ください。