藤沢市北部に位置する打戻(うちもどり)。のどかな田園風景が広がるこの地に、静かに歴史を刻む古刹「盛岩寺(せいがんじ)」があります。
先日、同寺を訪れ、その魅力に触れる機会を得ました。境内には、国登録有形文化財に登録された貴重な建造物があり、また現代のニーズに合わせた新しい供養の形も。住職にお話を伺いながら、その奥深い世界を垣間見ました。
歴史と信仰の息吹を感じる境内
盛岩寺は、慶長18年(1613)に朝岩存夙禅師によって創建された曹洞宗の禅寺です。御本尊は釈迦牟尼如来。本堂には同如来像の両隣に文殊・普賢両菩薩が鎮座しており、荘厳な雰囲気を醸し出します。
江戸時代中期に人気だった巡礼ルートである髙座南部地蔵尊二十四礼所(茅ヶ崎市南部から寒川、藤沢北西部を通り海老名南部に至る巡礼路)の十九番目としても知られます。本堂脇に鎮座する「延命地蔵」は健康長寿にご利益があるお地蔵様として知られ、当時多くの人びとが拝観に訪れました。

平成19年(2007年)に建立された山門が、訪れる人々を静かに迎えています。

奥には茶室「無庵」が建ちます。
時を超えた匠の技 、 国登録有形文化財「文化館」の物語
境内でひときわ存在感を放つ「昭和文化館」は国登録有形文化財です。これは元々、大正13年(1924年)に藤沢の街中に建てられた商店でした。昭和13年(1938年)に縁あってこの地に移築されました。その後、平成24年(2012年)に再度移築され、薬師堂を開き昭和文化館として開館しました。堂内には薬師三尊十二神将が祀られています。12年に一度、寅年に行われる「御開帳(ごかいちょう)」は、かつて地域の一大イベントだったといいます。2022年の御開帳では、たくさんのお坊さんが集まって盛大に行われました。

仄かな光の灯る内観
館内に足を踏み入れると、太く力強い柱や梁が縦横に組み合わされ、圧倒的な迫力。特に目を引くのは、大正時代のガラスや杉の板戸、猫間障子などが当時の気風を物語っています。

扁額はジャーナリストの半藤一利さんの揮毫
また、夏場の涼を確保するための深い軒(のき)、高い天井、そして風を通すための精巧な格子戸など、冷房のなかった時代の知恵と工夫が随所に見られます。「関東大震災(大正12年)の翌年にこれだけのものを建てたというのは、当時の財力と人々の復興へのエネルギーの表れでしょうね」という住職の言葉に、建物の持つ歴史の重みが伝わってきました。
この文化館は現在、お茶会や講演会、寺の宝物を展示する文化活動の拠点として活用されています。見学を希望する場合は、事前にお寺への連絡が必要です。
多様化する時代に寄り添う、 新しいお墓の形
盛岩寺では、現代のライフスタイルや価値観の変化に合わせた新しい供養の形も提案しています。境内にある樹木葬墓地「杜の里」はその一つです。
- 「最近は、やはり樹木葬を希望される方が多いですね」と住職。自然に還りたいという思いや、承継者問題を背景に、人気が高まっているそうです。
- また、「今は、1メートル四方くらいの土地に石塔だけを建てる、コンパクトなお墓が主流です」とのこと。場所を取らず、費用も抑えられるため、求めやすいのが特徴です。
打戻は藤沢市内でも屈指の富士山の眺望スポット。盛岩寺ではそのロケーションを活かし、雄大な景色の中で故人を偲ぶことができる環境が整っています。
「お墓は、故人を偲び、親族が集う大切な心の拠り所。形は変わっても、その本質は変わりません」という言葉が印象的でした。
ご料金は1区画(2霊骨可能区画)40万円(納骨時石材店費用あり)です。永代供養墓なので使用料・管理料・その他諸費用込みとなります。
墓地の奥にある樹木葬墓地ですが、正門や駐車場からの道のりには段差がなく、スムーズに移動することができます。足腰に不安のある方や、車椅子の方でも気軽に来ることできます。
取材を終えて
藤沢市打戻の地に佇む盛岩寺。そこには、100年の時を超えて受け継がれる匠の技と、現代に生きる人々の心に寄り添う温かい祈りの形がありました。喧騒を離れ、心静かに歴史と向き合える貴重な場所す。機会があれば、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。