2000年生まれの映像作家・大久保 楽(おおくぼ がく)さん。平日は仕事でクライアントと向き合い、週末はカメラを手に、茅ヶ崎の景色や人の営みを切り取る。そんな暮らしを続ける大久保さんが大切にしているのは、機材のスペックや派手な編集ではなく、その場に流れる空気感を、見る人にまっすぐ届けることだといいます。
移住先として選んだ茅ヶ崎で、地域の人たちと出会い、少しずつ広がっていくつながりの中で、大久保さんは映像を通じて「本当に伝えたいもの」と向き合っています。

大久保さんは三重県出身、千葉県での学生生活を経て2025年に茅ヶ崎に移住しました。
「何もしない焦り」から始まった映像への道
大久保さんが映像に向き合うようになった原点には、コロナ禍の停滞感がありました。大学を休学し、実家のある三重に戻っていた時期。何かをしなければいけないという思いから、実家近くで介護職に就きました。忙しく働く日々の中で感じたのは、充実感だけではありませんでした。
「このままでいいのだろうか」
目の前の仕事に追われる一方で、自分が本当にやりたいことから遠ざかっていくような感覚。その焦りが、大久保さんを映像の世界へと向かわせるきっかけになりました。
大学に復帰してからは、OBが関わる映像制作会社やフリーランスの現場に自ら飛び込み、「何でもいいからやらせてください」と声をかけていったそうです。最初から明確な道筋があったわけではありません。現場で手を動かしながら、少しずつ撮影や編集の技術を吸収していきました。
その中で大きな転機となったのが、映画『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督との出会いでした。所属していたコミュニティのイベントで、自身の作品を講評してもらう機会があり、そこでかけられた言葉が背中を押してくれたといいます。
全くの未経験から始まった映像制作。けれど、まずやってみること、そして自分の視点を信じてみることが、今の大久保さんの表現につながっています。

映像制作4年のキャリアでソニーの公式プロモーション動画の制作も
機材スペックよりも、どう切り取るか
映像の世界では、高価なカメラやレンズ、最新機材の話題が注目されることも少なくありません。けれど、大久保さんの撮影スタイルはとてもシンプルです。
愛用しているのは、ソニーの「FX30」と、ベーシックなレンズ。プロの現場でよく使われる上位機種に比べれば、決して大がかりな装備ではありません。それでも大久保さんは、機材に言い訳をしないといいます。
「モニターに映る映像がどれだけいいか、どう切り取るか。本来、映像を見る人にとって大事なのはそこだと思っています」
過度なエフェクトや派手な加工で見せるのではなく、その場にある光や表情、空気の流れをどう受け止め、どう画面の中に収めるか。大久保さんが意識しているのは、見る人の目線に立った映像づくりです。
撮影時には、できるだけ大きな機材セットを持ち込まず、コンパクトなジンバルなどを使うことも多いそうです。機材の存在感を必要以上に出さないことで、被写体やその場の雰囲気により自然に向き合うことができるからです。
「ごてごてしたものではなく、本質的な良さだけが伝わるように切り取りたい」
その言葉には、大久保さんの映像に対する姿勢が表れています。

大久保さんのカメラは、本格的でありながら、決して大がかりなものではありません
小さな頃から、風景をいろいろな角度で見ていた
大久保さんの視点の原点は、幼い頃の記憶にもあります。
美しい風景や草木を見つけると、「これはどんな角度から見えるんだろう」と、さまざまな方向からのぞき込んでいたそうです。ただ目の前にあるものを見るのではなく、少し位置を変えてみる。しゃがんでみる。近づいてみる。そうした感覚は、今の構図づくりにもつながっています。
また、映像作家・写真家である林響太朗さんをはじめ、他のクリエイターの作品から構図や編集のヒントを得ることもあるといいます。けれど、ただ誰かの真似をするのではなく、自分が見てきたもの、自分が心を動かされた瞬間をどう映像に落とし込むかを大切にしています。
大久保さんの映像には、派手さよりも静かな強さがあります。それは、日常の中にある美しさを、丁寧に見つめてきた時間の積み重ねなのかもしれません。

過度な加工や編集を加えず、素材そのものの美しさを切り取った映像が印象的です
茅ヶ崎で広がる、数珠つなぎのような出会い
大久保さんが茅ヶ崎に移住したのは、約1年前のこと。かつて父や祖父母が暮らしていた縁のある街でもありました。
東京への通勤圏でありながら、海や自然が近くにあり、まちの空気はどこかゆるやか。暮らしていく中で感じたのは、人と人との距離感の心地よさでした。
茅ヶ崎では、誰かと出会うと、そこからまた別の誰かにつながっていく。大久保さんは、そんな「数珠つなぎ」のような地域のつながりの中に身を置くようになりました。
ときにはボランティアとして、地域のイベントで撮影を頼まれることもあります。映像や写真の力で活動を支えることもあるそうです。
「地域には素晴らしい活動があるのに、それを発信する映像や写真のリソースが少ない」
大久保さんは、そんな地域の課題に自分のスキルで関わっています。自分にできることで、目の前の人や活動を少しでも後押しする。その姿勢は、茅ヶ崎のまちとの関係性を少しずつ深めています。
目の前の人の思いを、映像で届ける
「決して、有名な作家になりたいわけではないんです」大久保さんは、そう静かに話します。
現在の仕事は、クライアントワークが中心。映像をつくるうえで大切にしているのは、自分の表現を前面に出すことではなく、目の前の人が本当に伝えたいことを形にすることです。
その根底にあるのは、「喜んでもらえることがうれしい」というシンプルな思い。地域のイベントで撮影を頼まれたり、ボランティアとして映像や写真で活動を支えたりするのも、その延長線上にあります。
茅ヶ崎には、素晴らしい活動や魅力的な人がたくさんいる。一方で、それを発信するための映像や写真のリソースが十分ではない場面もあります。だからこそ、自分のスキルで少しでも役に立てたら。そんな思いが、大久保さんを地域の中へと自然に導いています。
好きなものに囲まれた暮らしから生まれる表現
大久保さんの感性を支えているのは、仕事だけではありません。グラフィックデザイナーとして働く奥様の存在も、そのひとつです。映像とグラフィック。表現の手段は違っても、受ける刺激は多いといいます。
二人の出会いのきっかけは、共通の趣味であるバイク「ホンダ・スーパーカブ」。学生時代には、夫婦でスーパーカブをモチーフにしたアパレルブランドを展開していたこともありました。今も茅ヶ崎で犬と暮らしながら、ローバーミニやスーパーカブなど、好きなものに囲まれた日常を楽しんでいます。

愛車のローバーミニと愛犬と
仕事、暮らし、趣味、そして地域とのつながり。それらが無理なく重なり合う日々の中に、大久保さんの映像づくりはあります。
大きく飾るのではなく、目の前にある空気を丁寧にすくい取ること。人やまちの魅力を、自然な温度のまま届けること。大久保楽さんの映像は、これからも茅ヶ崎の日常に宿る美しさを、静かに、まっすぐ映し出していくはずです。
インスタグラム:https://www.instagram.com/gaku_bulu/
作品集:https://www.youtube.com/playlist?list=PLPj9Wa0vyh7sQxVPuvylNHrCJqWWY733v
















