木の枝に擬態するユニークな生態で知られる昆虫「ナナフシモドキ」の雄が逸見地区で発見された。雌だけで子孫を残すことができるため、雄の存在は極めて珍しく、全国で十数例しか確認されていない。東京都世田谷区に住む中学2年生の松本美希さんが採集した後、深田台にある横須賀市自然・人文博物館に寄贈。現在、その貴重な標本が展示されている。
自然・人文博物館で展示中
ナナフシモドキは、ナナフシ目ナナフシ科の草食昆虫。外敵から身を守る手段として、木の枝そっくりの姿かたちをしている。雌だけで繁殖する「単為生殖」を行い、植物植物の種子のような硬い殻に包まれた卵を産む。1匹からでも仲間を増やすことができる特性を持つことから、北海道と沖縄以外の全国で広く生息している「身近な昆虫」で、三浦半島でもその存在自体は珍しくない。
雌と比較すると、雄は一回り小さく、体長10㎝ほど。体色が濃く、触覚が長いなど、異なる箇所がいくつかある。
〝カップル〟で寄贈
第一発見者である松本さんは、無類の昆虫好き。横須賀へは家族でたびたび、自然観察や虫の採集に訪れていた。
今年4月中旬、いつものように逸見地区の公園を散策していると、体長約2㎝のナナフシモドキの幼虫を発見。そのうちの数匹を自宅に持ち帰り、桜の葉などを与えて飼育した。2カ月以上が経過し、体の大きさは3~4倍に成長。ただ、1匹だけ容姿が違うことに気が気がついた。「もしかしたら雄かもしれない」と、同館に写真付きでメールを投稿。学芸員たちが調査した結果、正式に「雄」と判明した。
稀な交尾も記録
先月中旬には、雄と雌で交尾する非常に稀な様子も確認した松本さん。「未だ生体に謎が多いナナフシモドキ。今後の研究に役立ててもらえば」と、この〝昆虫カップル〟を同館に寄贈した。
しかし、雄は飼育下で1カ月半くらいしか生存出来ず、寄贈後間もなくして死んでしまったため、標本として一般公開されることになった。
昆虫・陸上無脊椎動物を専門とする同館学芸員の内舩俊樹さんは「雄の発見は、おそらく横須賀で初めて。ありふれた昆虫でも注意深く観察することで思わぬ発見につながる。たくさんの人に探求心を持ってもらい、滅多に見られない生き物の姿を知ってもらえれば」と話している。
展示期間は8月29日㈰まで。同館2階受付前の「生体展示コーナー」に雄のナナフシモドキの標本や松本さんの自宅で撮影された写真・動画、生きている雌が動き回る姿も観察できる。月曜休館(今月9日㈪は開館、翌10日㈫は振替休館)。