小町大路脇の袋小路の奥に移り住んで4年半。すぐ傍を滑川、背後には祇園山、四季折々の彩りが美しい閑静な一角だ。この界隈には魅力的な古刹も多いが、とりわけ妙本寺が趣深い。
ここは鎌倉時代初期、この場所に邸を構えた比企一族の悲劇の舞台となった。有力御家人比企能員は源頼朝亡き後、北條氏との権力争いの末に一族郎党滅ぼされた。昨年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、佐藤二朗さんが演じた、あの役どころである。
小町大路を南下し本覚寺前の夷堂橋を渡ってすぐを左に逸れ、青銅葺の総門をくぐる。老木生い茂る参道を進み鎌倉石の石段を上ると、弁柄塗りに龍の極彩色が映える二天門が、その向こうには威風堂々たる祖師堂が立つ。右手奥には比企一族の墓が大小ずらりと並び、その手前には一幡之君袖塚。僅か6歳で落命した一幡の、焼け残った袖を納めた小さな五輪塔が哀しい。
帰りは鐘楼堂、歴代廟、本堂、社務所を右手に石段を下り、方丈門を抜けたら右に折れる。小道を進んで竹林脇の石段を上ると、蛇苦止堂がひっそりと佇む。ここでは能員の娘で一幡の母、若狭の局を祀る。愛する息子を失った悲嘆のあまり、後世に大蛇の怨霊となって祟ったと吾妻鏡にある。引き裂かれるような母の胸の内に思いを馳せ、ただ鎮魂を願って静かに手を合わせる。