県立三浦初声高校和田キャンパスで4月22日の夕方、子牛が誕生した。都市農業科の生徒たちが育てる雌牛「ひろ」が、人工授精による繁殖に成功。同校では初の試みで、出産予定日から10日遅れて生まれたこともあり「不安で夜も眠れなかった」という生徒たちから歓喜の声が上がった。
和田キャンパスでは、都市農業科の生徒たちが牛を育てて肉や脂肪を増やす「肥育」を学び、農業に使用する堆肥を作るため、牛舎で雌牛2頭の世話をしている。
本来であれば2年ごとに出荷する食肉用の牛だが、北海道の家畜市場で選ばれた「ひろ」は特に優れた肉質の血統ということもあり、県畜産技術センター(海老名市)指導のもと、寺田朋子教諭と畜産部員で初の繁殖に挑戦することにした。家畜人工授精師の協力を得て、昨年5月に人工授精をしたが受胎せず、7月に再び行うと、翌月に妊娠が判明した。
小さな命、大切に
新年度に入り、上級生から”命のバトン”を受け継いだ12人の部員たちは、祈るような気持ちで出産予定日の4月12日を迎えた。しかし、ひろは一向に出産する気配がなく、牛舎内で掃除や餌やり、ブラッシングを行う部員たちは日に日に不安を募らせていった。陣痛促進剤を投与することも検討したが、獣医師から身体にリスクを負うケースもあることを聞いた。
休み明けの月曜の朝、ひろの様子はいつもと違い、苦しそうに息んでいた。すぐに県農業共済組合(伊勢原市)に連絡。駆けつけた獣医師がひろを診る様子を見守った。午後になると、子牛の身体の一部が外に出ているのが確認できた。つらそうに唸るひろ。部員たちは「がんばれ」「あと少し」と励ましながら、子牛の前足をロープで縛り力いっぱい引っ張ると、藁の上に勢いよく新たな命が産み落とされた。
「健康そうで立派な牛」と獣医師。「よくやったね」とひろを称える部員たち。あまりの感動に号泣だった大場乃ノ花部長(3年)は「生まれてきてくれてありがとう。母親似でかわいい。小さな命を大切に育てていきたい」と、ひろが舐める子牛をじっと眺めた。牛の親子は今後、同校で育てながら活用法などを検討していくという。