英勝寺(扇ガ谷)は、1636年英勝院(徳川家康の元側室)が、太田(おおた)道灌(どうかん)(室町時代に江戸城を築城)の屋敷跡に創建した、鎌倉で唯一の尼寺である。運慶作とされる阿弥陀三尊像のある仏殿をはじめ、鐘楼や山門などは、国の重要文化財に指定されている。
ここに咲く花といえば、初春の頃は椿。祠堂(しどう)前では、市の天然記念物、侘助(わびすけ)が濃いピンク色の花を咲かせる。そして梅。仏殿の右では、多くの白梅が咲き誇り、境内は春の匂いに包まれる。
陽春の頃は桜。仏殿前では、鎌倉では珍しい薄(うす)墨桜(ずみざくら)が薄紅色に咲き始める。境内で躑躅(つつじ)が咲く頃には、書院前の白藤も花を開き、甘い香りを放つ。また、仏殿の右では、道灌に縁(ゆかり)の山吹が、量感も豊かに黄色い花々を咲かせてくれる。
初夏の頃は紫陽花。青紫色や薄紅色の花々が境内を彩る。また、書院の隣、年間を通して緑の美しい竹林は、盛夏の頃には、サラサラという葉音とともに、涼やかな風を運んでくれる。
秋は彼岸花。仏殿の右では、真っ赤な花々が一斉に咲き始める。また、書院から境内に下る階段脇では、萩が枝垂れて咲く中、山門前などでは、紅白の芙蓉も咲く。
初冬の頃は紅葉(こうよう)。山門脇、市の天然記念物である唐楓(とうかえで)の古木をはじめ、境内の紅葉(もみじ)が、黄色や赤に染まっていく。
水戸黄門(水戸光圀)が、鎌倉巡りの宿所としていた英勝寺。四季を通じて、鎌倉に咲く花々に出会える名刹(めいさつ)である。
石塚裕之