神奈川県立がんセンターはがんの診断や治療のほか、臨床に直結した研究も行っている。2015年には国内5カ所目の重粒子線治療施設「i─ROCK」が開所。その後も18年に前立腺センター設置や手術支援ロボット「ダビンチ」の導入など、先進的な医療に取り組んでいる。
【1】前立腺がんは早期発見がカギ
国立がん研究センターによると、2017年のがん罹患率で日本人男性の最多は前立腺がんだが「転移がなく早期発見できれば10年生存率は100%であり、適切な治療により治りやすい」と泌尿器科の岸田健副院長は話す。
早期の発見には横浜市が行っているがん検診が有効。前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA検査で高値を指摘された場合、がんセンター等の専門病院で精密検査を行う。
- 「初期の場合は、重粒子線治療を始めとした放射線治療、ロボット手術による摘出などにより完治を得ることが可能です。特に重粒子線治療は、通常の放射線治療よりも照射回数が少なく、外来通院で治療ができます。いずれも保険適応されています」と岸田副院長。
また、転移が見つかっても有効な薬があり、「病気を長期にわたり抑えることを目指しています」と話す。
【2】自覚症状に乏しい肝がん
「肝がんは、自覚症状に乏しいため発見の難しいがんの一つです」と消化器内科(肝胆膵)の森本学副院長は話す。
治療には、手術や経皮的ラジオ波焼灼術(RFA)、カテーテル塞栓術、全身化学療法(抗がん剤)などいくつかの選択肢の中から、がんのステージだけでなく体力や肝機能を考慮して最適の方法が選ばれる。再発も高率なため治療を繰り返すことが少なくないという。
- 「手術とRFAは根治を期待できますが、重粒子線も従来の放射線照射より効果が強力で照射周囲への副作用が少ないという特徴があり根治が望めます」と森本副院長。重粒子線治療は対象の腫瘍サイズに上限がなく、手術やRFAが難しい部位にも治療が可能。
- 「治療に痛みはなく数回の外来通院で終わりますので、お仕事をお持ちの方やご高齢の方、合併症のある方にも適します」と話す。
【3】国内5番目の重粒子線施設
がんの治療法は現在、外科手術・放射線治療・化学療法が3本柱となっている。重粒子線治療は放射線を用いた治療のひとつで、「X線や陽子線などの放射線治療に比べ、がんを殺傷する能力が強いので、今まで放射線治療が効きにくかった肉腫など難治性のがんにも効果的です」と加藤弘之放射線治療科部長は話す。
重粒子線治療は現在、前立腺がん、頭頸部非扁平上皮がん、骨軟部腫瘍が保険適応になっている。その他、肺がん、食道がん、肝臓がん、膵臓がん、大腸がん術後骨盤内再発、子宮頸部腺がんなども先進医療として行われている。
- 「従来の放射線治療よりも治療効果が期待でき、照射回数も少なく済みます。また、手術に比べ、体を切開せずに治療できるのが大きな利点です。準備から治療まで外来通院で完了するのも良い点と思われます」と加藤部長。