鉄砲道の真ん中より少し東寄りに、純白の建物が立っている。壁には「茅ヶ崎ベーカリー」の文字。もちろんパンを作って売っているが、正式には社会福祉法人翔の会の生活介護事業所である(2019年設立)。主任の岩下誠大さんが言う。
「ここは障害は重いけれど仕事に挑戦したいメンバーさんに、なるべく高い賃金を払いたいという思いで立ち上げた事業所なんです」
生活介護事業所は丸一カ月働いても数千円しか貰えないのが実情だが、茅ヶ崎ベーカリーでひと月働けば5万円近い賃金が貰える。そもそもパン作りは障害者に向いているし、障害者が使いやすい機材を揃えていることも大きい。
「パン作りは工程が多いので、メンバーさんの個性に合った工程を割り振りしやすいんです」
とは言うものの岩下さん自身パン作りはど素人だった。寒川の湘南そると、元町のウチキパン、福岡のSimonで修業を積みメンバーさんと一緒に腕を磨いてきた。
「名物のソフトフランスはSimonさんの直伝です。メンバーさんがパンを作る技術に誇りを持ち、接客を通してコミュニケーション能力を高めたことで、表情が生き生きとしてきたのが嬉しいですね」
予約だけで完売することもある人気の角型食パンは、耳はカリっと硬めなのに中はしっとりしていて、一流店の味だが……。
「うちの主役はあくまでもメンバーさんです。おいしいパンだけでなく、頑張るメンバーさんの姿もぜひ見てほしいですね」
売り場から厨房が見渡せる設計なのは、メンバーさんの活躍を訪れる人に見てもらうためだ。
■執筆者プロフィール
山田清機(やまだ・せいき)
ノンフィクション作家。茅ヶ崎市浜須賀在住、57歳。著書に『東京タクシードライバー』『パラアスリート』『寿町のひとびと』など。