「中途半端な仕事はしたくない」
「お墓は亡くなった人が生きていた証であり、思い出と記憶を残す場所。残された人にとって大切なものだからこそ、中途半端な仕事はしたくないんです」。真摯な口調で話すのは、(有)横山石材店の3代目、横山邦義さんだ。
最近の懸念
最近の懸念は、中国など海外から安い石を仕入れ、インターネットで高く売りつけるブローカーや悪質業者、職人不在で下請けに任せるだけの石材店風業者が増えていることだという。「似た模様の石を並べられると、一般の方が見たら判断しづらい。安い石は、水を吸いやすく、汚れや黒ずみ、水アカなどがつきやすかったり、水分を含んでムラが出たり。高級な石にこだわるご高齢の方が増えている時代なだけに、騙される人も多いんです」。
本御影石(兵庫県)や庵治石(香川県)、大島石(愛媛県)などは美しい模様が人気で、採掘が難しいなど希少性も高いため、偽物が出回っているという。
一人で責任を持って取り組む
だからこそ、墓石・石材の職人として、ほぼ365日休みなく、全国の産地や採掘元へ出向き、直接商談し、産地証明書を発行し顧客へ提供するまでの一連の作業を、従業員を使わずに一人で責任を持って取り組むことを使命にしている。
また現在は、全国約1,200社の会員が加盟する日本石材産業協会の神奈川県支部長を務める。研修や交流などを通じて知り合った全国の職人仲間らと関係を深めてきたことも、高価な石を安く提供できる理由の一つという。
「本物だけを届けるんだという、石の職人としてのプライドですね。お客様に損はさせません」。図面を作り、合成イメージ写真を明示し、納得してもらった上で、協会が決めた基準に則り施工する――との基本姿勢にこだわるのも、精神誠意、真心を尽くしたい思いからだ。
以前、墓石の作業をしている時に、他社の親方から「そんなに丁寧に仕事してたら墓が壊れないぞ。10年で壊れてまた仕事になるよう適当にやればいいんだ」と言われ、強く抵抗感を抱いたという。「頑丈なお墓を作ることが職人の仕事」と、2005年から墓石の耐震・免振化にも努めている。
職人の精神を貫く
以前、最愛の娘を亡くした親から自筆を映した墓石を作りたいとの依頼を受けた。要望に応えて完成させた墓石を見るや否や、墓前でしゃがみ込み、手を合わせ、大粒の涙を流したという。「その姿を見たら、こみ上げるものがあって…。感動を与え、喜んでいただくために」。職人の精神を貫くと決めた一つのエピソードだ。
眠る人への気持ちを込めて――
石職人としてのもう一つの仕事は「納骨」の作業だ。納骨室を開け、ただ骨壺を収めるだけの業者が少なくない中、ここにも横山さんならではのこだわりがある。
- 心を込めて一礼し、お墓にすでに納めてある遺骨を取り出し、壺を洗う
- 水がたまっていれば水抜き、納骨室内が土や虫の死骸で汚れていたり、木の根が張っていればきれいに清掃し、遺骨を戻す
- 墓石、花筒、水鉢、線香皿の洗浄、周辺の草むしりも
- 線香や焼香台の用意、お花の長さの調整などを行う
- 納骨後、施主が帰った後に、ふたの目地仕上げ
「式のさなかに作業をするので、施主や親族の方々に気づいていただけないかもしれない。でもそこに眠る人への気持ちも込めて、ですね」と横山さん。
墓じまい
近年増えているのが「墓じまい」。後継ぎがいない、引っ越すことになった、維持管理が難しい、など理由は様々という。「生きた人の証である墓を無くすことに少し寂しさは感じますが、それぞれ家庭の事情がありますから」と、解体工事や墓の引っ越しも良心的な価格で受け付けている。
また、墓の清掃だけの依頼にも対応。「墓じまい」となった石材は産業廃棄物になるが、SDGsの観点から再生砕石など別の用途に生かせるよう分別を徹底し処分を行っている。
- 以下の写真は墓石クリーニングの写真です。
職人として磨きをかける
2022年11月、地元で母校の新城小学校(川崎市中原区)70周年式典で、歴史的建造物として伝わる「八百八橋」の記念碑を寄贈し、学校と実行委員会から感謝状が贈られた。大戸神社の鳥居や等々力緑地にある記念碑を手掛けるなど、地域貢献にも積極的だ。最近では、SDGsの観点から、石の端材をいかし、玄関や庭に飾る小物、石のブレスレットなどを提供することにも挑戦。自然にできた「さざれ石」などの魅力も伝えている。
地域への恩返し
小学生の頃、父の仕事を手伝ううちに、自然と石の魅力に惹かれていったという横山さん。長年支えられてきた地域への恩返しとして、保護司や消防団の一員としても活動する。「保護司になり8年。観察処分を受けた人と接することは、社会的な知見も増えるし、精神的な鍛練にもなり、奥が深い。最後に感謝されると、やはりうれしいですね」。
2011年の東日本大震災の際には、被災地に足を運び、津波で被害を受けた墓石などの復興支援にも尽力。地域のため、人のため、職人としての磨きをかける。