「小さなお子さんが、お母さん、お父さんと一緒に人形を飾る中で、物の大切さや、礼儀作法などを楽しみながら自然に身につけていく。また毎年出来ることが増えていき、成長の過程を感じる。それが本来の節句というものなんです」と語るのは、来年100周年をむかえる「人形工房はやしや」の3代目、小林誠さん(56)。
人形師の道へ
小林さんは店主として人形を販売するとともに、手作りで人形の制作を行う人形師としての顔も持っています。数人のグループで分業で部位を作っていて、小林さんは顔、手、冠の担当をしています。
もともと人形販売専門だった同店。小林さんは25、6歳の頃、人形作りの職人に弟子入りしました。当初は「お客様に職人さんの技術、人形作りの気持ちや苦労を伝えて、販売に結び付けることが目的だった」と言います。しかし、人形作りの奥深さにひきこれていき、没頭していきます。10年から15年くらいかけてようやく、師匠や人形のプロデュースをしている人に認めれらるようになったことから、自身が作った商品も販売するようになったそうです。
それでも「自分でいい出来だと思ったものも5年、10年経って見てみると恥ずかしい出来だったこともある」と振り返ります。自分で人形作りに携わったことで、お客様に人形の説明をする際に自分ではとても真似できない技術について、説明出来たり、職人さんが見てもらたいと思っていることを、きちんと伝えられるようになりました。
例えばAの商品とBの商品の値段の差について、手間や技術の差で違うんだということを根拠を持って自信を持って言えるようになったといいます。
「お客様から見ても、作っている人が売っているという事と、修理がどんなところでも対応できるとことで安心感をもっていただけてるんじゃないかと思います」と自信も覗きます。
かわさきマイスター
人形師としての実績が評価され、小林さんは2019年に川崎市から市内最高峰の匠として「川崎マイスター」に認定されています。
- そんな小林さんが職人として心がけていることは、人形はお客様にとっては唯一のものだということを忘れないこと。例えば10体の人形を作るとして、1つの人形は自分にとっては10分の1かも知れないが、手に取るお客様にとっては1分の1。特に小林さんが手掛ける顔は人形に命を吹き込む部位であるだけに気を抜けません。
人形ができるまで
人形が出来上がるまでには様々な工程があります。
例えば、顔の部分が完成するまでに
①全体の造形を決めるデッサン
②複製するための型を作る
③生地を作る
④上塗り―顔の表面を白く塗る
⑤面相ー筆描きをする
⑥結髪ー絹の髪を植えて結う
こうした一つ一つの作業の積み重ねで繊細な人形が完成します。
こどものための節句を
お雛様は子どもが生まれた時に、お祖父さん、お祖母さんやご両親がお祝いで買うことが多いですが、少し前までは「恥ずかしくないもの」が売り文句の時代があり、豪華な木製の段飾りだったり、高価な物が多く、飾るときに子どもには重くても持てなかったり、高価なものなので触らせなかったりという家庭が多くあったといいます。
子どもが一番興味をもつ時期に飾り付けから外されて、「はいできました」となり、子どもがいないときにしまってしまうということが続いてきた中で、共働きの親が増え、飾ること自体が大変になり、しまう場所もないといったことで、お客さんは購入に当たってマイナスイメージを持つようになっていきました。
しかし本来、ひな人形や五月人形は子どものためのもの。小さな子どもが、人形を自分で持って触れて、飾ったりしまったりを親と一緒やることで得られる「人形に触れるよろこび」、「できたという達成感のよろこび」、「できた事を褒められるよろこび」、親と一緒に過ごす「楽しい時間のよろこび」。この4つの『よろこび』が「子どもの成長の糧になると思う」と小林さんは語ります。
お客様の笑顔がよろこび
小林さんは仕事のよろこびはお客様の笑顔だと言います。小林さんは販売の時にお客さんと接して、お宅に伺って飾りつけもします。「お客様のよろこぶ顔や、お話した時に納得していただいた瞬間、飾りつけに行ったときに『本当にいいものを買わせていただいた』とおしゃっていたただ時はうれしいですね。職人として作っているだけでは反応は分からないので」と話しました。
人形選びはプロに相談を
同店には常時70点ほどの人形が並んでいます。様々なタイプの人形があるので、相談をしてみてはいかがでしょうか。きっと小林さんがプロの目線で、お子さんにあった人形を選んでくれることでしょう。