これまでの歩みとこれからについて井上社長に聞きました
青山(相模原市緑区)を拠点に地域密着のサービスを提供する株式会社上河原「リフォーム工房 リ・フォーユー」。1964年の会社設立から今年で60年を迎える同社の井上映伸社長に、ここまでの会社の道のりや思いについて聞きました。
はじまりは経木(きょうぎ)
井上社長の家は昔は農家だったそうですが、戦後、祖父が農業のほかに経木を始めたと言います。経木とは、木を薄くスライスして作る包装材のこと。おにぎりの包み紙やたこ焼きの下に敷く木の紙と言えばわかりやすいでしょうか。「農家だけではやっていけず、経木を始めたと聞いた。津久井は木が豊富だし、当時は家が川沿いに合ったから、木を運びやすかったというのもあるのかもしれない」と井上社長は説明します。
そして1964(昭和39)年に父・寛氏が「有限会社上河原木工所」を設立します。「三ケ木(相模原市緑区)にあった建具屋さんが閉店するにあたり、親戚からそこを買い取ったらとの話があり、そこで働いていた職人・機械を引き継いだと聞いている。元屋敷の隣にあった豚小屋をリメイクして工場として使ったみたい(笑)」と言います。
この頃は、時代は高度経済成長に差し掛かり、日本では住宅不足が叫ばれていました。住宅建築には勢いがあり、木製建具の仕事も忙しさを増していく中、業界ではアルミサッシの普及が一気に進みました。同社では1975(昭和50)年に現在の事務所の場所にアルミサッシの組み立て工場を建て、業績を伸ばします。「80年代中頃には二本松に『リビングいのうえ』という今で言うホームセンターを出店したこともあったね」と話します。
転機はリーマンショック
「私が入社した1995年は地元の工務店や建築会社も元気が良くて、新築需要が続いていた時代。リフォームという言葉はあったが、まだまだ新築メインで『リフォームなんて面倒でできるかよ!』と言っていた時代だった」と井上社長。
しかし、岐路に立たされたのが2008年のリーマンショックでした。世界的に景気が停滞したことで、一気に仕事が無くなってしまったそうです。
それまでは、工務店や建設会社の下請けを中心に主に建具を取り扱ってきましたが、ここで状況を打破するために、リフォーム部門を立ち上げます。これが、現在の「リフォーム工房 リ・フォーユー」です。「取引先にも理解をいただいて、大々的にスタートさせた。でもなかなかお客さんがつかなかったね」と歯痒い想いが蘇ります。
「3年目くらいかな。折込チラシを始めたことで、少しずつだけど会社を知ってもらって、依頼が増えるようになった」。鮮やかな黄色が目を引くお馴染みの看板もこの頃に街中に設置し、より地域で周知されるようになっていきました。
「お客様の声」が聞こえるように
「リフォーム事業を始めたことでお客様の声を直で聞くことができたのは大きかった」と井上社長。それまでは工務店や建築会社との仕事なので、そこに住むお客さんとは直に会うことは滅多になかったそうです。「実際にお客さんから喜ばれたり、感謝されることが一気に増えた。それは大きな喜びだし、仕事のやりがいになったね」と声が弾みます。そして、リフォーム事業も軌道に乗り、今から10年ほど前に井上社長は代表取締役に就任。「特に何かを変えたことはないけど、朝ラジオ体操をして、朝礼を始めたくらいだよ」と笑顔を見せます。
「地域密着」へのこだわり
同社が掲げるのは「地域密着」。「地元に愛されないと商売はダメだと思う」という考えから、同社は事務所から車で40分までの地域を基本的な商圏としています。「地元で変な仕事は絶対にできない。だからこそ地元に根付いてやってきた」とその思いを話します。
そして、「打ち合わせは何回でも無料」というのが同社の特徴です。「まず前提として仕事をするためには前もって段取りが必要。そして、弊社を選んで正解かどうかをお客様に見極めてもらう。打ち合わせは両者の思いが本当に合致しているかどうかをお互いに見極めるための時間でもある。最終的にはお客様に喜んでもらうために仕事をするので、そこですれ違わないために」と話します。
自社施工にもこだわります。専属大工と木工職人、塗装職人は常駐。アルミの加工や硝子工事、電気工事は自社社員で施工しています。「お客様に安心感を持ってもらうために、自社施工比率を高めているところ。社員である職人が現場で働きながら、現場を見るスタイルをとっている。職人同士、連携を取りながらお客様の住まいを施工させていただいている」と説明します。
「頼んでよかった」がやりがい
「『お客様から頼んでよかった』『お宅がいなくなると困る』と言われることがある。それがやりがいだし、それをこれからもずっと続けていきたい。もちろん今までのお客様は大切にしたい。だから呼ばれたらできる限り早く行く。新しいお客様にはうちに何を期待してくれているかを確認する。聞くと、遠く離れた会社に営業をかけられて、結果的に失敗してしまったという話もある。うちは地域密着だから」と話します。
そして、今年で60周年を迎え、次を見据えます。
「企業は30年持てばいいという話を聞いたことがある。それを考えると、弊社は2サイクルを終えたタイミングになる。次のサイクルを超えるために、今までのことを大切にしつつ、新しいことに取り組んでいるところでもある。
リニア、圏央道でインフラ整備がすすむ津久井地域は、移住や循環型社会で新たな価値観が生まれてきている。人と人がふれあい、だれもが暮らしやすいまちに変えるお手伝いをしていきたい」と話しました。