藤沢市内の水田で栽培された酒米だけで醸造された日本酒「藤田熊醸(ふじたくまじょう)」がこのほど完成し、6月21日から約4千本が限定販売される。藤沢産の米の付加価値を高めようと、水稲生産者や蔵元、さがみ農業協同組合、市の4者が連携。休耕田の抑制など農業課題の解決が背景にあり、関係者らは「日本酒を飲んで藤沢市の水田保全を応援してほしい」と話している。
「爽やかな中にもコクのある味わい。食事にも合うと思う」
6月1日、記者会見に出席した熊澤酒造(茅ヶ崎市香川)杜氏の五十嵐哲朗さんが飲み口をPRした。商品名の藤田熊醸は「藤」沢の水「田」で育てた米を「醸」した、と地産であることが分かるよう意識したという。
地産の酒米で日本酒を作るプロジェクトは2021年にスタート。同酒造の依頼に応える形で、さがみ農協藤沢市稲作部会の3人が酒米の生産に着手。翌22年には生産者を4人に増やし、稲荷、西俣野、高倉の圃場で約3tを収穫した。
品種は「五百万石」。同部会部長で稲荷で酒米を育てる長谷川登さんは「(全国的に最も生産量が多い)山田錦に比べて稲の背が低く、倒伏しにくい。肥料の量を調整するなど土地に合わせた栽培方法を選択した」と説明する。
水田4分の1に
市農業水産課によると、市内の水田は米価の下落や資材高騰などにより年々減少傾向にある。高度経済成長期の1970年の作付面積は454haだったが、2020年には4分の1以下の104haに減った。
過去数年は微減にとどまっているものの、同課は「生産者の高齢化が進み、今後加速度的に担い手不足が深刻化するのではないか」と懸念。水田は洪水防止や景観保全、生物多様性など多面的な機能を持っていることから官民連携でプロジェクトを進めてきた。
市はふるさと納税の返礼品にも加える予定で、鈴木恒夫市長は「藤沢産米の付加価値を高める取り組み。日本酒を飲みながら藤沢の歴史や文化も感じてもらいたい」と後押しした。
価格と販売数は1800ミリリットルが3110円(税込・312本)、720ミリリットルが1730円(同・3600本)。21日から北村商店(藤沢)、藤沢とちぎや(藤沢本町)、勝浦酒店(川名)、へいわ酒店(鵠沼海岸)で販売する。