相模原市で唯一、「かながわSDGsパートナー」制度の第1期(2019年)に登録されたマルトシフロアーコーポレーション(根小屋)。いち早くからSDGsに取り組む同社の網野通社長に、事業の内容や未来への展望を聞くと、それは「地域」への思いに行き着きます。
転機は地域活動に参加したこと
マルトシフロアコーポレーションは1998年に設立。2006年に法人化します。主な業務は床工事業を中心とした内装工事全般、そして「津久井おが子(おが屑)」の販売です。網野社長は23歳で起業。父が床工事の職人で、高校に通いながら床工事の技術を学びました。卒業後は父の下で2年働き、別の会社で3年働いてから独立します。その後、床工事業を中心に業績を伸ばしていきます。
転機は38歳の時。網野社長は津久井商工会、津久井青年会議所(JC)の会員になります。地域でさまざまな事業に関わることで、津久井地域の良さを知ることになります。「それまでは、都内や遠方の仕事が多かったので、正直、地域のコミュニティもわからないし、津久井地域の特徴も知らなかった。商工会とJCに入ったことで、津久井地域が中山間地域としての課題を抱えていること、神奈川県の水がめとして大きな役目を果たしていることなどを知った」と話します。そんな中で出合ったのが津久井産材のおが屑でした。
水源地域にある会社だから
津久井の山間地では、水源森林保全の一環として間伐が行われています。その後、間伐材は建築資材や家具などに加工されますが、製材の際に約7%のおが屑が出ます。このおが屑の多くは廃棄物として処分されます。おが屑には水や油の吸着力があることから、網野社長はそれまでも、床工事の際に出る建築現場のほこり取りや、水・油の吸着材として津久井産材ではないおが屑を使っていました。
そんな背景から、「津久井産材のおが屑のことを知り、それを地域ブランドにして販売したら、森林保全にも貢献できるし面白いのでは」と考えました。商工会のつながりで地元の製材屋さんから津久井産材のおが屑を購入できることになり、自社ブランド商品「津久井おが子」を開発。その売り上げの5%は、現在も水源保全のために寄付し続けています。網野社長は「私たちは地球に住む以上、この地球をきれいに良い環境のまま使わないといけないと思っている。水源地域にある会社として、これからも森林保全へ貢献していきたい」と話します。
SDGsの考えとピッタリだった
そして、津久井おが子の開発後に知ったのがSDGsでした。たまたまJCの活動の中でSDGsのことを知り、横浜市で開催されたフォーラムに出席。神奈川県が「SDGs日本モデル宣言」をしたことを受け、かながわSDGsパートナーの募集がはじまると、すぐに応募しました。「もちろんSDGsのために津久井おが子を開発したわけではなく、津久井おが子そのものがSDGsの考えとピッタリの商品だった」と強調します。
田んぼが真っ白に。「なんとかしたい」
その後、網野社長は2020年に株式会社ネットフィールドを設立します。この会社は、自然素材を生かした商品作りと、環境商材の商品開発・販売を主な業務としています。防虫効果が高く、抗菌・抗ウイルスで、家づくりに推奨される「青森ヒバ」の木の力を生かした商品を開発し、オイル、スプレー、石鹸、ハンドクリームなどを販売しています。
さらに、床工事で地方の建築現場に行った際、別の業者が用水路に汚水を流して田んぼが真っ白になったことがありました。建築現場の汚水処理について疑問視していた網野社長は、おが屑の特徴を生かして汚水をなんとか処理できないかと考え商品開発に着手。津久井産材のおが屑に特殊ポリマーを混ぜ合わせた「オガポットプロ」という汚水処理剤を開発しました。オガポットプロは汚水に混ぜることで吸収しゲル化。流さずに産業廃棄物として処理することができます。さらに、その技術を発展させて、非常用トイレとして活用できる「オガポット」、交通事故現場でエンジンオイル等の油を処理する「オガレッカー」などを生み出し、販売しています。
今後について網野社長は、「ネットフィールドを作ったときに、目標とした障害者雇用を積極的にやっていきたい。床工事をきっかけに障害者施設と交流を持つようになり、障害者が経済的に自立できるように稼げる仕組みを作らないといけないと感じた。我々の商品作りを通して、障害者に給料を払えるような仕組みを作りたい」と話します。早速、座間市や相模原市の就労支援施設にオガポットの袋詰めの仕事を依頼しています。施設では仕事がなかなか見つからないこともあり、仕事を依頼すると喜んでくれると言います。「我々のような会社でも、地域のコミュニケーションを使って障害者と一緒になった循環を作ることができる。SDGsも障害者雇用もしっかり取り組めるというのを地域に見せていきたい」と話しました。