三崎港そばで、1989年から毎週日曜に開かれている「三崎朝市」。午前5時から8時30分まで、ありとあらゆる種類や部位のマグロ、旬の地魚、水産加工品、みずみずしい三浦野菜、生花など、各店自慢の商品がずらりと並ぶ。最近では蜂蜜屋の出店や犬の譲渡会も開かれ、話題を呼んでいる。
- 2024年に35周年を迎える三浦の名物イベントに、記者が潜入を試みた。
対面販売は商売の基本!パワフルでチャーミングな店主たち
夜明け前の薄暗い駐車場。眠い目をこすりながら辺りを見渡すと、都内ナンバーも多い。
「はい、いらっしゃ~い!!」
威勢の良い店主の声が、潮風に乗ってここまで聞こえてきた。
会場に一歩足を踏み入れると人・人・人!朝の早い段階からすでに賑わいを見せており、あまりの活気にただただ圧倒されるばかり。迫力と臨場感あふれる店前にいる客の表情は嬉々としている。
丸々と太った三浦大根に…
キラキラと輝く鮮魚に…
マグロの切り身が所狭しと並べられているほか…
何と言ってもパワフルでチャーミングな店主たちが魅力的!
店主:「安いよ~!」
客:「え~?もうちょっといけるでしょ?」
店主:「じゃあもういいよ!3つで1,000円!!」
客:「イェ~イ♪」
日常の何気ない会話の妙。心と心が通い合う瞬間のぬくもり。サービス精神旺盛な店主は声を枯らしながら客の緊張の糸を解きほぐし、客は少し個性的な店主との駆け引きを楽しんでいる。フェイストゥフェイスでの古き良き交流がここにはある。
美味しい食べ方も教えてくれる
なかでも長蛇の列をなしていた店が、秘伝のタレに付け込んだ魚の切り身を販売する「漬屋」。地魚料理店「くろば亭」が別の屋号で出店しており、メンバーは若手ぞろいだ。
「焼き目が付いてからレンジでチン。脂が乗っていて焦げやすいから」「バターで味変できる」「唐揚げもおすすめ」
カラリと明るい声が聞こえてくる。ただ袋に詰めて売るだけでなく、ちょっとしたアドバイスも付け加える。港町で商いを支えてきた先人たちから脈々と受け継がれてきたこうした気遣いが、客の心を捉え、ファンを増やす。周りの店でも陳列された商品が飛ぶように売れていき、空になった発泡スチロールの箱が次から次へと積み上がっていく。
子どもにも大人にも人気!ダンボール水族館
刻一刻と空の明るさが増し、会場はもう朝焼けに覆われていた。ふと、砂利に敷かれたダンボールに目を落とす。「ダンボール水族館」と大書された文字が踊っている。
魚市場に水揚げされた生物の中から、観音崎自然博物館学芸部長の山田和彦さんが特に珍しいものをダンボールの上に並べ、すらすらとマジックペンで名前を書いていく。「マグロだけではなく、三崎の海を豊かさを知ってほしい」と6年ほど前から始まり、今では子どもから大人まで幅広い世代が楽しみにしている行事となった。
ジャンケン大会!?大盛り上がりの企画も
パンパンに商品が入った袋を客がぶら下げている。映画だったらエンドロールが流れ、そろそろ帰ろうかなどと思うころ、ジャンケン大会がスタートした。3つ以上の袋を持っている客を対象に、三崎朝市協同組合の理事長を務める立川哲夫さんとジャンケンをして最後の1人まで勝ち上がると、各店の商品がプレゼントされるという企画。
「ハイ、ジャーン、ケーン、ポーン!」
皆まだまだ元気そうだ。
わいわいと楽しい時間は過ぎていく。「すぅ~ふぅ~」と海から吹いてきた空気を胸いっぱいに吸い込んでいると、この短時間で急激に心が癒されていることに気づいた。「取材、おつかれさん!」と声を掛けてくれる店主たちに、三崎ならではの人情も感じた。
「ここでしかできない体験を」
「買う買わないは二の次。遊び心を持ち、とにかくお客さんに楽しんでもらいたい」。鮪問屋㈲小山商店の店主でもある立川理事長が腰に手を当てながら言った。
まだまだ魅力的な店主が存在する三崎朝市。一人ひとり良い味を出していて、「客を喜ばせたい」というシンプルな想いだけを大切にしている。ここでしかできない体験の価値を皆で高め合っているようにも思えた。会場を訪れた時には、買い物をして帰るだけでなく、ぜひ店主とコミュニケーションを取ってほしい。その出会いはきっと我々を繋ぎ止める錨(いかり)のように、また三崎に行きたくなるきっかけになるはずだから。
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