なぜだろう。心惹かれるものがある。甘い菓子にしょっぱい菓子、何が出るか分からないカプセルトイに年季の入った瓶ジュースのケース――。まるで時が止まったかのような佇まいに手繰り寄せられ、記者は昭和レトロな駄菓子屋に飛び込んだ。名向小学校近くにある「青木商店」には、放課後にはしゃぐ無邪気な児童たちの姿があった。
店主を務めるのは、青木正男さん(86)。農家に生まれ、竹細工職人を経て、29歳で駄菓子屋を開いた。「昔ここは畑でね。小学校ができる時に更地になったから家を建てた。駄菓子屋は親戚が先にしていた。にぎわっていたから私も挑戦。最初は板一枚の上に品物を並べただけだったけれど」と教えてくれた。
かつては「そこら中にあった」という駄菓子屋も、少子高齢化やコロナ禍、物価高騰などの影響で、一つまた一つと閉店していった。ここも厳しい状況には変わりはないというが、「子どもの楽しみを奪うわけにはいかない。私がまだ丈夫なうちは開けるつもり」とにこり。そのうち「おじちゃん」と子どもの声が聞こえた。駄菓子屋は社会の縮図。対面での古き良き交流が見られた。
店内をよく見渡すと、定番駄菓子のほか、鉛筆などの文房具、「キリンオレンジエード」のタペストリーもノスタルジックな雰囲気を演出。「たまに『30〜40年前に通った』という卒業生も来るんだよ。覚えていてくれてうれしいよね」。駄菓子の味はタイムカプセルの役割を果たし、限られた小遣いとにらめっこしながら買い物をした純粋無垢な当時の自分に戻っているのかもしれない。