心臓が十分に血液を送り出せず、心不全や脳卒中を引き起こす可能性がある「心房細動」。「心臓のがん」とも言えるほど、脳梗塞や腎梗塞など多臓器に悪影響を及ぼす深刻な病気で、日本全国に150万人もの患者がいると推計されています。
今回は心房細動の治療にあたって、今注目されている「高周波ホットバルーンカテーテルアブレーション」について、その開発者である葉山ハートセンター副院長・不整脈センター長の佐竹修太郎医師に話を聞きました。
葉山ハートセンターにおける画期的な治療
従来、心房細動の治療には薬物療法やカテーテルアブレーションが行われてきました。 薬物療法は、抗凝固薬や抗不整脈薬などを用いて心房細動を抑制しますが、出血のリスクや長期的な効果の限界、心室不整脈による突然死のリスクなどの課題があります。
一方、カテーテルアブレーションは、カテーテルと呼ばれる細い管を血管から心臓に挿入し、不整脈の発生源を焼灼(しょうしゃく)して根治を目指す治療法です。 従来の電極カテーテルアブレーションでは、心房細動の発生源が肺静脈周辺に広範囲に及ぶため、多数の点状焼灼が必要となり、治療時間が長くなるだけでなく、合併症のリスクも指摘されていました。
これらの課題を克服するために開発されたのが、高周波ホットバルーンカテーテルを用いたアブレーション治療法です。 佐竹医師が開発したこの治療法は、直径約25mmのバルーンを使用することで、従来の電極カテーテルの10倍もの広範囲を一度に焼灼できるという画期的なものです。
バルーン内部に高周波通電用電極と温度センサーが設置されており、バルーン内液を高周波で加熱することで膜温度を60℃まで上昇。 ホットバルーンからの熱伝導により、不整脈の発生源となっている心筋組織を焼灼する仕組みです。
高周波ホットバルーンカテーテルの特長
高周波ホットバルーンカテーテルは、これまでの臨床研究において以下の点で従来の治療法に比べて優れているとされています。
- 安全性:高周波を直接流さず、熱伝導を利用するため、心臓穿孔や食道穿孔などの合併症のリスクが低いと報告されています。
- 有効性:広範囲を均一に焼灼できるため、治療の成功率が高く、再発率が低いとされています。
- 迅速性:従来の電極カテーテルに比べて、焼灼回数が大幅に減少し、治療時間を短縮できます。
佐竹医師は、この治療法について「電極カテーテルで100回焼灼するところを、ホットバルーンなら10回でできる。ステーキを焼くのに、焼け火ばしを使うかフライパンを使うかほどの違いがある」と述べています。

ホットバルーン加熱時のサーモグラフィー:バルーン温度は60℃、接触組織は50℃~60℃に加熱、血栓形成や穿孔なし
葉山ハートセンターでは、この高周波ホットバルーンカテーテルアブレーションを臨床研究として実施しており、良好な治療成績を収めています。 発作性心房細動に対する1回の治療での薬物療法不要率は90%、2回の治療では96%に達し、慢性心房細動に対しても高い有効性が示されています。
心房細動は、高齢化社会の進展とともに増加が懸念される疾患です。 高周波ホットバルーンカテーテルアブレーションは、安全性と有効性に優れた画期的な治療法として、今後の心房細動治療において重要な役割を担うことが期待されます。
佐竹医師は、今後もより多くの患者さんが安心して治療を受けられるよう、技術の発展に尽力していくとのことです。
話を聞いたのは・・・
佐竹修太郎医師
葉山ハートセンター 副院長 不整脈センター長
東京医科歯科大学 元特命教授