江戸時代、年間20万人が信仰と行楽のために歩いた「大山詣り」。相模国大山に鎮座する大山阿夫利神社への参詣は、庶民の暮らしに根差した文化を育んだ。この歴史ある街道を歩き、その情景をスケッチと紀行文で綴る「大山街道スケッチ紀行」を、東京都のクリエイター岡本和泉さんが出版社「風人社」の公式ブログで公開しています。
公開されているのは『ウォークマップ ホントに歩く大山街道』(風人社)などを片手に、2022年から25年にかけて実際に街道を歩き、スケッチとともに大山山頂を目指した記録。歩く道は、数ある大山道の中の「青山道」「矢倉沢往還」と呼ばれているもので、現在の国道246号のベースとなっている道です。江戸赤坂御門を出発し、三軒茶屋〜二子・溝口〜荏田〜鶴間〜海老名〜厚木〜下糟屋〜伊勢原〜大山山頂までの約70キロを巡ります。記録は、一般的なガイドブックとは異なり、街道の歴史、そこに息づく人々の暮らし、そして現代の風景が織り交ぜられ、読者は街道を歩くような感覚を味わえる内容だ。岡本さんは、かつて情報誌制作に携わった際に大山街道の一部を取材した経験があります。その際、部分的な取材では街道の全体像が掴みにくいと感じたことが、今回の全行程踏破への動機となったといいます。
寄り道文化楽しむ
道中では、かつて宿場町として栄えた場所の面影を探したり、変化する地形や坂道に注目したりと、岡本さん独自の視点が随所に光ります。「大山詣りの面白さは、現代のツアーの先駆けともいえる『寄り道』の文化」と、当時の人々の暮らしや街道が持つ意味を想像しながら、時には脇道にもそれながら旅を楽しんだ。月1回を基本に、1回あたり15〜20キロと行程の6倍もの距離を歩き、気になった点や驚きなどを「メモスケッチ」で瞬時に記録。帰宅後に旅を振り返りながら、スケッチを仕上げました。
紀行の目的地である大山に到達した際、大山の麓から振り返ると、起点から歩いてきた距離を思い、深い感慨があったといいます。岡本さんにとってこの旅は、ライフワークの一部として「この道が私にとってどういうものになるのか」を追求する機会でもあったと話します。「このブログを通じて、より多くの人々に大山街道の新たな楽しみ方や、スケッチの魅力を伝えたい」と語ります。
川崎で企画展も
また、「大山街道スケッチ紀行」の前編(赤坂御門〜馬の背)の企画展が川崎市高津区の川崎市大山街道ふるさと館(高津区溝口3丁目13−3)で6月10日(火)まで開催されていました。後編(町田市〜大山阿夫利神社下社)も9月に予定されています。

岡本和泉さん(Izumi Okamoto)さまざまな「デザイン」を通して、社会や地域、環境、食、観光、ものづくり、文化などをつなぎ新たな展開をするプロデューサー&クリエイター