横浜市瀬谷区を拠点として居宅介護や訪問介護・看護、デイサービスなど16事業所を運営している株式会社ひとはな。同社は2009年の開設以来、着実に事業所を拡大してきました。介護業界で人手不足が叫ばれるなか、スタッフの人数は毎年増加し続け、現時点で250人を超えるなど、その成長は目覚ましいものがあります。
今回のレポートでは小松巧代表取締役と青木順子取締役にインタビュー。以下4点について掘り下げて紹介します。
1.「憧れのある仕事を」に込めた想い
2.女性が働きやすい職場づくりとは
3.進むICT(情報通信技術)の活用
4.介護職に関心がある人たちへのメッセージ
介護職や会社の魅力、多くの人に
Q:「憧れのある仕事を」を掲げている理由や、その意味合いを教えてください。
小松巧代表(以下、小松氏)
会社を立ち上げた当時は、介護業界に対するイメージがあまり良くなかったんです。介護業界って聞くと、どのようなイメージがありますか?
ーーハードな仕事というイメージはありますね。
小松氏
取材などで訪問介護に同行したことはありますか?訪問介護で利用者宅を訪れて、ドアを開けた時の瞬間。どんなイメージを持ちますか?
ーー独居高齢者のお宅に行った時は、玄関の明かりは付いておらず、誰も出てこない。奥に利用者がいて、ちょっと暗そうなイメージでしょうか。
小松氏
多くの人が抱く、そのようなイメージが実際の現場とずれていたんです。介護サービスにもよりますが、訪問介護では元気なおばあちゃんやおじいちゃんが玄関で迎えてくれることの方が多い。なので、「憧れのある仕事」という理念は当初、「介護の仕事は明るくて、良い仕事ですよ」と介護業界に対する偏見を払拭したいということが目的でしたね。
Q:近年は、そのあたりの部分が変わってきているのですね。
青木順子取締役(以下、青木氏)
介護保険サービスを多くの人が利用するようになり、今ではマイナスイメージをもつ人は随分少なくなっていると思います。介護職に対する認知度も進みました。
昔は「介護事業所で働いています」と言うと、「すごいわね」「大変なのに偉い」と声を掛けられることもありましたが、今は少ないですね。「介護」という仕事が浸透して、社会を支えるライフラインの1つになっていると思います。
小松氏
社会の変化に合わせて、「憧れのある仕事を」の向かう先も変わってきました。今では業界全体のイメージ改善よりは、「ひとはな」という企業の目標にシフトしつつあります。
介護の会社が多くあるなかで、私たちの働きぶりを見た人たちから、「かっこいいな」や「こういう職場で働きたい」と、憧れられる会社でありたい思いの方が強いですね
子育てと仕事の両立に頑張るスタッフを応援
ーー御社は男女ともに働きやすい企業が対象の「よこはまグッドバランス企業」や、横浜市の「女性活躍推進事例企業」などにも選ばれてきました。250人以上のスタッフがいるなかで、特に直接雇用で子育て中の女性が数多く活躍されていますね。
青木氏
全スタッフが直接雇用で、男女比率で言うと90%以上が女性。子育て中の人は約70%に上り、産休明けの復帰率は100%となっています。また、管理者の約90%が女性という点も特徴の一つです。
※詳細は以下のグラフを参照
Q:女性の働きやすい職場づくりを進めている理由を教えてください。
青木氏
私は2010年の入社で、当時は子どもが保育園と小さかったんです。急な発熱などで休まざるを得ない状況もある中で、私としては仕事との両立を諦めたくありませんでした。そこを支えてくれたのが小松を始めとする当時のスタッフで、夜の研修に参加する必要がある時は、子どもを預かってくれたりしました。そういった経験があるから、私自身も仕事と子育てを両立するために頑張っている人を応援したいと考えています。
Q:具体的にどのような取り組みを進めていますか。
青木氏
子どもは新しい環境や緊張から熱を出したり体調不良になったりするものです。これはどうしても避けがたいもので、ひとはなでは病児保育室と連携して、費用の補助を行っています。
ーー入園・入学式や卒業式などに合わせた「子ども式典休暇」、「成人式休暇」、産休・育休取得明けの職員向けの「初めてのHappy Birthday休暇」などユニークな休暇制度も多くありますね。
青木氏
節目節目でお子さんとの時間を大事にして欲しいです。また、「こども特別休暇」という制度もあります。入社間もなくて有給休暇を取得していないなかで、子どもの看護や行事などに合わせて取得できるものです。子どもって、親が働き始めた時期とかに、その変化を感じ取って体調を崩すことが多いですよね。親からすると入社して時間が経っていないなかで心情的に休み辛いんです。なので、会社として「そこは休んでください」と伝えるために制度化しました。
ーー「人事異動がほとんど無い」という点も特徴的です。
青木氏
子育て中に勤務場所が変わるのは大きな負担となります。スキルアップや、ご家庭の理由以外の人事異動はほとんどありません。開業してから人事異動の実績は10人に満たず、その理由は管理者登用や、自宅近くの新規事業開設に伴う異動などです。
子ども連れで研修やイベントに参加もOK
小松氏
補助制度ではありませんが、会社の研修にお子さんを連れて来ての参加がOKだったり、会社のイベントにはお子さんも一緒に楽しめることを企画しています。
青木氏
研修に「子どもを連れてきて大丈夫です」って言われるだけで全然違いますよね。「子どもがいるから行けません」ていうのは残念ですし。私自身も、それが受け入れられているのはすごく助かりました。
Q:実際にお子さんを連れてくる人は多いのでしょうか。
小松氏
研修だけではく、忘年会など会社の集まりに連れてくる人もいます。小さかった子が久しぶりにあったら、いつの間にか大きくなっていて、驚くこともあります。スタッフ間で子育ての悩みを共有できたりすることも大事だと考えていて、気軽に言い合える環境が、子育て中の人の働きやすさに繋がっている部分もあると思います。
ICT活用で業務効率アップ
Q:ICT活用にも力を入れているそうですね。
小松氏
働き方改革が求められていますし、何より増加し続けている高齢者人口に対応できるように、業務効率化を目指してICT化を進めています。特にコロナ禍が始まってからは、その動きが加速しました。
Q:具体的にはどのような機器を取り入れているのでしょうか。
小松氏
ケアマネジャーや訪問看護、福祉用具のスタッフにはパソコン・スマートフォン・iPadを1人1台導入し、ヘルパー・デイサービスには骨伝導イヤフォンを支給しています。骨伝導イヤフォンは電話しながらパソコンやタブレットを操作できますし、音声もクリア。年配の方は声が小さいことも多いですし、重宝しています。
ーーICT機器の導入が負担軽減につながっているのですね。
小松氏
デイサービスだと、その日の利用者に合わせてAIが送迎コースを組んでくれるソフトもあります。訪問看護では専用の電子カルテを導入していて、連絡・報告・相談・帳票作成などを行なっています。
Q:現場の方々の反応はいかがでしたか。
小松氏
最初は不満を持った人もいましたね。紙に書いて管理することに慣れていましたから。ただ、導入して時間が経つと、自然と使えるようになりますし、業務効率化につながっています。スタッフの中には70代や80代の人もいますけれど、皆さんしっかり活用していますよ。
「ともに事業所を作っていきましょう」
Q:子育て中で介護職に就きたいと考えている人に向けて、何かメッセージはありますか。
青木氏
今年5月に、「初めてのケアマネジャーと子育て両立〜母と娘の10年間〜」という動画をホームページにアップしたところ、大きな反響がありました。
小さい頃から会社の研修に参加したり、事務所に来ていたお子さんで、「福祉の仕事かっこういいな」「ひとはないいな」なんて思ってくれていたんです。何より、働く親の姿を見て、「やっぱりお母さんはかっこいいな」「10年も働き続けて本当にすごいとおもいます」と感じてくれていたそうです。
ーーとても素敵なお話ですね。
青木氏
本当にそう思います。例えば、大きく成長した子どもから「私も介護の仕事をしたい」「ケアマネジャーになりたい」とか、「私は本当に幸せだった」なんて言われたら、親はとても嬉しいですよね。
私たちもそれを目指して、仕事と子育てを両立するために頑張る人たちを応援できる環境を会社全体で作ってきますし、同じように感じてくれるスタッフが増えたら嬉しいですね。
Q:小松代表もメッセージをお願いいたします。
小松氏
私はスタッフに対して「いい介護とはかくあるべき」というような話をすることはあまり無いんです。ひとはな各事業所の方針を尊重していて、管理者をはじめとするスタッフに運営を任せています。事業所によって雇用形態やユニフォーム、査定基準などが異なっているため、会社内に管理者という個人事業主がたくさんいるような組織構造なんです。
Q:事業所の裁量が大きく、それぞれ色が異なると。
小松氏
そうなんです。その分、管理者やスタッフ一人一人の「事業所をより良くしていきたい」「発展させていきたい」というモチベーションもとても強いものがあります。
だからこそ、ひとはなの働き方とマッチングする人は「一緒に事業所を作っていける人材」だと思っています。「皆で力を合わせながら前を向いて、目標に進んでいく」。そういう過程が楽しいと感じれる人に、ぜひきてほしいですね。
ーー目標に向かってともに歩める人材像を求めているんですね。
小松氏
そうですね。働きやすい環境をとっても、与えられるばかりでは駄目だと思ってます。働きやすい職場ってどんなところなのか、そのために何が必要なのか、ぜひ一緒に考えて作ってほしいです。
ーー本日はどうも、ありがとうございました。