日本の伝統的染色技法のひとつ「型染め」で、魅力的な作品を作り続けているのが、茅ヶ崎市中海岸に住む伊藤純夫さん(73)と、千秋(せんしゅう)洋子さん(72)夫妻です。活動を始めて約半世紀という2人は、3月15日(土)から1週間、アトリエ展を開催します。今回は伊藤さんと千秋さんにこれまでの歩みや、型染めへの想いを聞きました。
「型染め」は、模様を彫った型紙ともち粉、ぬかで作った糊で布に模様を染め出す技法で、2人は現在、のれんや掛け軸、額絵、バッグ、小物などさまざまな作品を制作し、定期的に展示会を開催しています。
型紙の切り抜きや糊付け、染作業など全て手作業だといい、「50年間ずっとたった2人だけで作り続けてきた」と笑顔で話してくれました。
こだわりは「布」だそう。草や木など自然の繊維で織った日本古来のしな織布や藤布などを使用しています。「丈夫で美しい仕上がりになる」のが特徴で、市場になかなか流通しない布も使い、作品の魅力を高めてきました。
出会いは美大時代
茅ヶ崎出身の伊藤さんと北海道出身の千秋さんは、多摩美術大学の染色デザイン科で出会いました。織や染を学ぶうち、型染めの面白さに夢中になった2人は、大学院時代に型染め職人のもとに通い、さらに技術を習得していきました。
卒業後は共同で作家活動も行い、展示会などを開催していたそう。「渋谷パルコの1坪ショップでは1日で100万円売り上げたこともあったよ」と笑う伊藤さん。徐々に型染め作家としての知名度を高めていきました。
結婚と移住
結婚を機に、30代で二宮町へ。13年間、創作と子育てに奮闘した後、自宅兼工房の老朽化を機に千葉県の南房総に移りました。「豊かな自然と温暖な気候に恵まれ、最も充実していた時期かもしれない」と2人。伊藤さんは「家の周りで野菜や草花を育てて成長過程を観察していた。お店では見ることのできない生命力を感じて、それが本当に作品に生きていた」と懐かしみます。
もともと「教えることはしない」と決めていた2人ですが、近所の人たちの要望に応え、講習会も開くようになったそうです。「笑顔が忘れられなくて、茅ヶ崎でも講習会を続けているんです」といいます。こうして21年間にわたり、南房総で作品作りに励んでいました。
茅ヶ崎へ
伊藤さんの実家を改修したことをきっかけに8年前、茅ヶ崎に拠点を移しました。「こっちに来てからは、自分たちのペースで好きなものを作っているよ」と千秋さん。作風にも変化があったといい、これまで「魚・野菜」をテーマに制作していた伊藤さんはさまざまな物体をテーマに挑戦するようになり、「花」をテーマに作り続けてきた千秋さんは孫をイメージした「人物」を取り入れるように。そんな2人の作品はNHK「すてきにハンドメイド」1月号で4ページに渡って紹介されたそうです。
「50年本当によくやったね」とほほ笑む千秋さん。「収入がなく、もうだめだと諦めそうになったことが何度もあった」といいますが「型染めで食べていくんだというプライドで続けてきた。不思議なことにピンチになると仕事の依頼がくる。そうやって続けてこられた」と話します。お互いの作品からインスピレーションを貰うこともあると話す2人。「夫婦であり相棒。作家としても、家族としても支えあっていく」
アトリエ展開催
3月15日(土)から22日(土)にかけて「伊藤純夫・千秋洋子アトリエ展」が「染・空・間 CEDAR HOUSE」(中海岸2の3の14)で開催されます。のれんやタペストリー、バッグ、Tシャツ、小物などを展示販売します。時間は午前10時から午後5時まで。
問い合わせは「染・空・間 CEDAR HOUSE」【携帯電話】090・3001・0946へ。

藍のかくはん作業を行う伊藤さん

色差しを行う千秋さん