海老名市国分南にある「優成サービス」。会長を務めている八木正志さんが1991年に立ち上げた会社です。
創業以前は、警察官や警備会社の一員として活躍してきた八木さん。優成の社名にこめた「優しく成(な)ろう」という想いから産まれた「福祉バイオトイレカー」について記者が取材しました。
「現場にトイレを」
八木さんがトイレカーの開発を始めたのは、約15年前。当時は車作りの経験もなく、クリアしなければならない法律もありました。
その中で最も課題として立ちはだかったのは「し尿」。通常の道路では「し尿が飛び散る恐れがある」として仮設トイレをトラックに積み込むなどのトイレカーの走行は認められていなかったためです。
そこで八木さんはトイレを水を使わない「バイオ」でクリアすることに。水をよく吸うおがくずを使ったトイレは、開発初期こそ陸運局に「前例がない」と言われてきましたが、諦めずに申請を出すうちに、有効性が認められたそうです。
- トイレカーの完成は2008年。糞尿者として特殊用途作業に充てられる「8」のナンバーを付け道路を走行することが出来るようになりました。また、日よけや休憩室、カラーコーンの積載スペースを備えた車は例がなく「野外作業支援車」として実用新案の取得も行いました。
福祉の道へ
ある現場でこのトイレカーを興味深くじっと見つめる車イスの男性がいたそうです。「車イスを使用する人は、野外で自由に使えるトイレがないんです」。そう話した男性の言葉を聞き、八木さんは「この車を車イスでも使えるようにする」と心に誓いました。
そこから八木さんの行動は速く、ほどなくして電動リフトを備え、福祉の現場でも使用出来る形にトイレカーは生まれ変わりました。
- そこから現在まで福祉団体のイベントや、肢体不自由者の旅行、パラスポーツの現場などでトイレカーは使われています。
「トイレに困る人が減るように」
- 災害支援で日本各地で使われたトイレカーは、多くの人々のトイレ事情の解決の一歩になることを示し続け、北海道苫小牧市で公用車に採用されるまでになりました。
- 仮設トイレと違い、設置や撤去に時間がかからず、自走可能なトイレカーは、災害現場やイベントなど場所を問わず使うことができます。
八木さんは「なにより車イスの方が使ったとき、自由に使えるトイレがあってよかった、この車があって本当によかった。そういって貰えるのが本当に嬉しいんです。開発にかかったお金は数えるのが怖いけど、社会の役に立てているならよかったですよ」