「せいたかさん」と身長3cmほどの小人「コロボックル」が登場する「コロボックル物語」シリーズ。読書少女だった私が第1作目「だれも知らない小さな国」(1959年刊)に出会ったのは小学校低学年のころ。人間から身を隠して生きている小人たちの世界にワクワクしながらページをめくった記憶があります。
この物語は「日本初のファンタジー小説」と言われていて、作者の佐藤さとるさんは横須賀市のちょうど真ん中に位置する「西逸見」の出身。横須賀で暮らしていたのは戦中の1928年から10年ほどでしたが、「コロボックル」のストーリーには、西逸見の谷戸(丘陵地の合間にある谷状の地形)の自然も描かれています。
散策は京急・逸見駅からスタート!
目的地は塚山公園。逸見駅を出発し、昔ながらの商店街から住宅街へ入り、なだらかな坂を上っていくと、人ひとりが通れるような細い階段が見えて、小川のせせらぎも聞こえて…「谷戸」の景観が広がります。ふと斜面を見ると、小さな人形がこっそり顔を出しています。*この辺りは、Google mapでも「コロボックルの小径」と出てきます。
その途中には、作者の佐藤さんの生家跡の看板があります。ここでのイメージが物語につながったのかな―?と想像が膨らみます。ちなみに佐藤さんの自伝的物語「わんぱく天国」(1967年刊/絶版後佐藤さとるファンタジー全集として復刊)は、その幼少期を思わせる内容。舞台となる塚山公園は遊びの「天国」。戦いごっこや一銭飛行機づくりなど、昭和初期・戦時中の子どもの姿も重ね合わせることができます。
私設の「野外図書館」もありました
ふと後ろを見ると、意外と高くまで登ってきていました。柿の谷戸(かきのやと)と言われているそう(柿の木がある谷戸なのでしょう)。そこで見つけたのが「コロボックル野外図書館」という看板。元理科教師で三浦按針や塚山公園の自然に関する絵本を自費出版している吉江宏さんが自作したもの。透明なドーム型のテントに佐藤さとるさんの著作がずらり。その数約150冊。谷戸を眺めながら読書にふけることができるそうです。向かいの丘には「わんぱく天国」に登場するグライダー(原寸大)も設置しています。「(佐藤さんの作品を)紹介するにはとっておきの場所でしょ」と吉江さん。
横須賀市西逸見町3-65
開館日は土日の10:00~15:00*荒天の場合は中止
さらに登っていくと、塚山公園に到着。吉江さんらが手掛けた草花の紹介看板もあります。秋から冬は植物鑑賞には少し物足りないかもしれませんが、水仙が少し花を付けていました。頂上の「見晴台」からは遠くは房総半島や横浜、眼下には横須賀港などが見渡せます。桜の名所でもあり、春には「三浦按針観桜会」も開かれています。ここまで、野外図書館への寄り道を除いて片道15分程度。運動不足の身には少し息が上がりましたが、軽いウォーキング・ハイキングにも最適な場所です。
「コロボックルの小屋」でひと息
折り返して逸見駅に戻って、1分ほど歩いた場所にかわいい「小屋」があります。佐藤さんの著書や逸見の豊かな自然環境を多くの人に知ってもらいたい、と地元有志が手作りで設けた「コロボックルの小屋」。これを運営しているのは「コロボックルの会」の面々。生前の佐藤さんとも交流があり、絵の得意なメンバーが現地の地図を作ったり、「わんぱく天国」にちなんで昔のおもちゃ(凧やメンコ)も展示しています。
横須賀市東逸見町2-3
開館日は土日・祝日の10:00~16:00
横須賀の「逸見」地区は、江戸時代に徳川家康から領地を与えられたイギリス人、三浦按針(ウィリアム・アダムス)ゆかりの地。按針はガリバーの旅行記のモデルになったと言われており、どうやら巨人や小人…と縁のある場所のようです。「コロボックルの小屋」には、按針に関する資料もあります。
取材後記
佐藤さんが亡くなってからもうすぐ5年が経ちますが、「コロボックルが生まれた町」を発信しようと、市内の小学校や文化施設で有志による展示も行われています。今年は7~9月に神奈川県近代文学館で作品展も催されていました。
私も「小人」に出会い(!)、ひと通り散策して、また最初から読んでみたいな―と読書意欲が高まりました。秋の夜長に、ファンタジーの世界に浸ってみるのもいいですね!