あっちもマグロ。こっちもマグロ。三崎名物と言えば、やっぱりマグロ。と思いきや、スンスン。何処からか甘い香りが漂ってくる。嗅覚によって手繰り寄せられた先は、和菓子屋。よーく街を巡ってみると、ほかにもたくさんある。「三崎」と「和菓子」?その関係やいかに?謎を解き明かすべく、それぞれの店主から理由を探ってみた。
嶋清
まずは嘉永6(1853)年に創業したという菓子の老舗「嶋清」へ。
6代目店主・秋本清道さんによれば「三崎は寺社仏閣が多いから」と分析する。お供え物のほか、祭事・慣例などで行き来する人々が、職人たちの手によって生み出された和菓子を食べることで、季節感を感じる意味合いもあるという。
「嶋清」記者オススメ~だんご~
大ぶりのつきたてだんごをパクり。このモチモチ感がクセになる。香ばしい焼きみたらし&風味豊かな草こしあん。店の人気商品で午前中に完売する日が多いという。
- 店舗info 嶋清/三崎3-4-13/046-881-2036/休:水曜
宮田屋
次に向かったのは、大正10(1921)年ごろに創業したという「宮田屋」。
4代目店主を務める川名大介さんによると「昔は遠洋漁業に出港前のマグロ漁師のために、和菓子を詰めた一斗缶を販売した時期があった。当時はよく売れたと聞いているから、それで和菓子屋が増えたのかもしれない」と推測する。何カ月もの間、見果てぬ海へと船出した肩幅の広い男たちが、糖分を摂りながらマグロと格闘していたかと思うと、感慨深い。
「宮田屋」記者オススメ~あわび最中~
横須賀市「さかくら総本家」で修業を積んだ先代が「さざゑ最中」から着想を得て誕生したそう。こしあん・つぶあん・しろあん(きざみ栗入り)3種類。一風変わったフォルムが斬新だ。
- 店舗info 宮田屋/三崎4-7-1/046-881-3519/休:月曜
きむら屋
昭和32(1957)年に設立した「きむら屋」へ。
3代目店主・木村高広さんの奥さんによると「赤ちゃんが生まれて3日後に食べる『三つ目のぼたもち』、妊娠5カ月目の戌の日に妊婦が帯を締めて安産を祝う時に食べる『帯締めだんご』など、三崎にはまだ昔ながらの風習があるからなのでは」という。
観光客というより、住民のコミュニケーションツールとして、和菓子を食べる文化が今なお色濃く残っている。
「きむら屋」記者オススメ~柏もち~
葉っぱの爽やかな匂いとみずみずしい丸い餅、あんこの優しい甘さ。どこか郷愁を誘う味に思わず涙が出そうになる。
- 店舗info きむら屋/城山町10-10/046-882-0575/休:木曜
斉藤菓子店
真正面に臨む海と富士山――。ん?はて、ここは?ミステリアスな建物内を自分の目で確かめるために首を伸ばすと、なるほど。和菓子がずらり。
カウンター越しにいるお母さんに「寺社仏閣が多いから」「マグロ漁師のニーズが多かったから」「昔ながらの風習が残っているから」と、これまで各店主から聞いた三崎に和菓子屋が多い理由をまとめて話すと「全部合っていると思います」と納得していた。
「斉藤菓子店」記者オススメ~じょうよまんじゅう~
大和芋を生地に練り込んだ「じょうよまんじゅう・あやめ」(中央)は、フワッとした食感の薄皮に包まれたこしあんが美味。そのほか、テレ東系バラエティ番組『モヤさま』で、さまぁ~ず・三村マサカズさんが食べたことがあるという「水まんじゅう」(左)、三浦産レモンを使用した「れもんまんじゅう」(右)なども揃う。
- 店舗info 斉藤菓子店/白石町16-6/046-881-5513/休:木曜
おわりに
「まぁ、食べてごらんよ」。取材した店舗で和菓子を差し出す店主たちに、三崎ならではの人情を感じた。帰り道、凄いスピードで癒されていることに気づいた。
今回は、三崎エリアを中心とした一部の店舗だけ紹介したが、三浦にはまだまだ魅力的な和菓子屋が存在する。一つひとつに独自の味があり、ロマンがある。市内を訪れた際には、実際に自身の舌で特徴を確かめるだけでなく、ぜひ店主にこだわりを聞いてほしい。その熱き思いは我々を繋ぎ止める錨(いかり)のように、また行きたくなるきっかけになるはずだから。