日本で唯一、透明点字シート付絵本を製作・貸出ししている「ユニバーサル絵本ライブラリー・ユニリーフ」(大下利栄子代表)が建長寺(鎌倉市)境内に仏殿を再現したブロンズ模型の設置を目指している。「目が見えなくても、触れることで思い出に刻まれる。障害の有無に限らず楽しめ、見えない人の世界を想像する機会にもなるので、両者を繋ぐ接点にもなったら」と意気込んでいる。
ユニバーサル絵本
大下さんは、2008年、ユニリーフを設立。絵本の製作を始めた。それまでの点字絵本といえば、真っ白な紙に点字が書かれているだけ。視覚障害のある娘が一人で読む姿を前に「見ているこちらがさみしい思いだった」と振り返る。
イギリス発祥のユニバーサル絵本を知ったのが大きな転機になった。市販の絵本に透明点字シートをはさみ、障害の有無に関わらず誰もが楽しめる作りに感銘を受けて活動を開始。絵本を解体し、点字シートを挟んで再製本しては、希望する全国の個人や団体、施設に無料で貸し出してきた。その数は10年間で1千冊にのぼり、長年の活動が評価されて2019年には内閣総理大臣賞を受賞した。
絵本の延長に
また、透明点字シートだけでなく、昆虫や動物の形をかたどったり、実際の生き物の大きさを触ってわかるようにする工夫を凝らした「触れる絵本」作りにも力を入れている。道路標識の型と説明を入れると、ある子どもから「こんなものがあるんだね」と感想が寄せられた。「実際に触れることで、理解が深まり想像が広がる」と大下さんは語る。
こうした絵本の延長で長年、温めてきたアイデアがブロンズ模型だった。旅行先のポルトガルで世界遺産の「ベレンの塔」を訪れた際に初めて知り、感銘を受けた。「全盲の娘は旅行へ行っても何も見えず、思い出にも残らない。でもこれがあれば、一緒に触れて思い出を共有できると確信した」という。
ブロンズ模型
模型の発祥は約20年前のドイツ。シティーツアーに参加していた現地の盲学校の生徒たちが、口頭だけの説明に戸惑っていた様子を見たアーティストが発案したという。現在ではヨーロッパ60都市に120台が設置されており、旧市街全体を再現したものもある。
多くの人が集まる場に設置されているのも特徴だ。建物の細部や普通なら見ることのできない部分も再現しており、誰にとっても「間近に見て触れられる文化財」となる。見えない人に思いを馳せ、自分事にする機会にもなる。
近年、日本でも導入する動きはあるものの、活用されている例はほとんどない。今回は大下さんの構想に鎌倉市の担当者が共感したことをきっかけに、臨済宗建長寺派の大本山・建長寺が協力。境内の仏殿前に、仏殿のブロンズ模型を設置しようと準備を進めている。
クラウドファンディング
多額の費用が掛かるため現在、支援者を募集している。今後は、クラウドファンディングも実施する予定という。最新情報は「ユニリーフ」のHPで。