神奈川県総合防災センターで聞いた「想定される災害、押さえるべき防災ポイント、コロナ禍の避難所事情」など

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神奈川県総合防災センターで聞いた「想定される災害、押さえるべき防災ポイント、コロナ禍の避難所事情」など

 9月1日は防災の日です。また、防災の日を含む1週間は防災週間、9月は防災月間です。1923年に発生した関東大震災に因んで制定され、台風の高潮、津波、地震などの災害について認識を深め、心構えを準備する機会となっています。

 災害は、いつ、どこで起きるかわかりません。

 神奈川県でどんな災害が想定されるのか知っていますか?災害が起きた時、街に、私たちの暮らしになにが起きるのでしょうか?押さえておきたい防災ポイントやコロナ禍の避難所事情まで、神奈川県総合防災センターに聞いてきました。

 神奈川県総合防災センターは、災害時における神奈川県の応急活動体制と中央基地としての役割を担う、県内唯一施設です。物資の保管場所や臨時ヘリポート、救援活動拠点などの役割もあり、東日本大震災の時などにも被災地とのやりとりや災害救助団体の拠点などとして活用された場所です。

 通常時の役割は、防災について広く学ぶことのできる施設です。地震や風水害体験等を通じ、災害が起こる前の備えや、実際起きたときの災害状況や避難方法などを学ぶことができます。

 場所は厚木市にあり、無料で見学ができます(※2022年9月現在、感染症対策のため完全予約制で人数を限っての見学となっています)。

神奈川県でどんな災害が起きる?

〇想定される災害

 施設に入ると、受付があり、正面のロビーは吹き抜けとなっています。2階の天井から下げられた垂れ幕には「東日本大震災で記録された津波高(m)」が描かれています。

 東京湾に面した横浜では1.55m、横須賀では1.36m、相模湾の小田原市でも0.94mを記録し、漁業者など影響を受けた人もいます。

 海や山、川のある神奈川県では「地震」「津波」「高潮」「台風」など、これまで様々な災害に見舞われてきました。「相模湾、東京湾では津波や高潮、また富士山に連なる山々の噴火も対策の考慮に入れるべき災害です。台風の際は、浸水や土砂災害も考慮に入れないといけません」と同センターは説明します。

 地震に関しては、神奈川県は太平洋プレート、フィリピン海プレート、北米プレートが重なるエリアです。【大正型関東地震】【都心南部直下地震】【南海トラフ巨大地震】などの多様な地震が想定されます。

 県では、国の調査データなどをもとに

を作成。地域ごとに想定される被害の規模などを公開しています。

 「県では災害に強いまちづくりを進めていますが、『絶対にここは安全』といえないのが災害です。まずは皆さんが住んでいる地域の特徴を知ることが大切です。また、学校や会社、生活圏や、レジャーなどで普段お住いのエリアから出る際も、その場所で起こりうる災害を確認し、頭の片隅に入れておいてほしい」と話します。

〇災害が起きた時、街に、私たちの暮らしになにが起きるのでしょうか?

 1階から2階にかけ、センターには様々な災害体験設備があります。「体験することで初めて分かることは多いと思いますが、災害においても同様です」と同センター。災害が起きた時、実際にどのような影響があるのか、設備を活用し実際に体験してみました。

災害体験コーナー

 東日本大震災を機に、災害への意識が高まりました。災害は被害を教訓に学ぶことが多い一方、震災以降に生まれた子どもたちや影響の少なかった地域の人たちにとってはその限りではないといいます。同センターは「災害の反省を生かすことは大前提ですが、事前の対策で、被害を最小限にできることが一番いい。体験設備を通じ学んでいただければ」と話します。それでは、センターで体験できる3つをそれぞれ見ていきましょう。

「地震」

 最大震度7までの4つの地震を3方向の揺れで再現。揺れに合わせて動く迫力あるCG映像とあわせて、臨場感のある体験ができます。センターでは、「関東大地震/1923年(屋外道路上編)」「兵庫県南部地震/1995年(住宅室内編)」「東北地方太平洋沖地震/2011年(商業施設内編)」「オリジナルプログラム(学校教室内編)」の、シチュエーションや震度、揺れる時間など状況の異なる4つのプログラムから選んで体験ができます。

 今回体験したのは「関東大震災」、最大震度は6。屋外で道路を歩いている時に被災した状況です。体験開始後、アナウンスの後、地鳴りと共に、強い揺れが発生。塀の上の植木鉢や屋根瓦などが落下、ガラスの割れる音もします。無理やり踏ん張って立ち姿を保てる状況です。揺れも収まり、周囲を見渡す余裕も出てきます。

 しかし、これはあくまでも「余震」。その後、「本震」がやってくると、状況は悪化します。落下物やガラスの割れる数も倍以上、また、落下物もビルの看板など、大型のものも多く、崩れ落ちる塀や住居もあります。車庫に停まっていた車は飛び出し、倒木や、電信柱が折れ、身の危険を強く感じます。避難を急ぐべきなのですが、揺れが強く、歩行どころか立っているのも困難です。

 次に体験したのは「兵庫南部地震」。住宅室内での被災想定です。こちらも、高い場所にあった物が次々と落下、閉まっていた棚の扉もひとりでに開いてしまいます。またテレビや本棚などの家具も倒れてきます。壁にはひびが入り、窓ガラスが割れて、破片が部屋へと降り注ぎます。

 屋外、屋内を問わず、地震が発生した時には、命を守ることがなにより大切です。そのために必要なことは主に3つ。「①落下物に気を付け、体勢を低くする(DROP)」「②腕や荷物を使い頭を守る(COVER)」「③じっと動かず、揺れが収まるのを待つ(HOLD ON)」。これらはまとめて「安全確保行動(シェイクアウト)」と呼ばれます。

 同センターは「地震が発生した時、パニックにならないためにも、事前に予測することが大切」と話します。

「風水害」

 近年、台風などの風水害の被害規模が大きくなっています。

 台風において強さを示す「風速」では、暴風域の指標となるのは「風速25m/s以上」とされます。人が普通に立っていられるのは風速10mまでとされ、25mでは建物の屋根が剥がれたり、大木が折れる可能性もあります。

 同センターには風速毎秒30メートルの強風と時間雨量50mmの激しい雨を体験できる設備があります。(現在、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、雨体験は休止しています

 今回、強風体験に参加しました。専用のゴーグルをはめ、装飾品を外しての体験です。室内には頑丈な手すりがあるのですが、しっかりつかんでいないと立っていられない状況です。また、強い風が肌にあたると、痛さを感じるほど。同センターは「転倒の恐れがあるため地震と同じように姿勢を低くすることが大切」と話します。

 防災では見逃されがちだった「風」ですが、木や電柱を折り、ガラスを割り、瓦や看板などを飛ばすなど大きな被害を及ぼします。地震と異なるのは、これらが落下するのではなく、吹き飛ばされてしまう点。周囲に被害を及ぼさないためにも、事前の点検や対策が必要です。また、安全な室内にいることが一番ですが、外を歩かないといけない場合は、雨で視界が悪い点や、これらが飛んでくる可能性も考慮にいれながら移動しなければなりません。

「火事」

 地震などに伴い、火事が発生することもあります。センターでは「消火体験コーナー」「煙避難体験コーナー」の体験が行えます。

 消火体験は、本物と同じ大きさの水消火器を使った消火体験ができます。火災の際、大切なのは出火してすぐの初期消火と言われます。いざという時のために、消火器の稼働のさせ方や、効率的な消火の方法を知っておくことが大切です。

 煙避難体験は、屋内で火災が発生した時を想定し、煙の中を安全に避難する方法を学ぶ体験コーナーです。建物は迷路状になっており、非常灯を目印に出口を目指す必要があります。煙が充満した部屋は視界が悪く、また、火災の際は停電などを伴うこともあります。火元の情報など安全を促す声が流れるのですが、逃げ惑う人の声がかぶり、気を付けていないと聞き逃してしまいそうになります。スマートフォンの明かりなどを活用するのも手段のひとつです。

「防災シアター」

神奈川県で起こりうる災害を想定し、地震による津波・噴火が発生した状況を映像で紹介しています。映像はCGによる災害再現を使い、ニュース仕立てになっています。

 同センターは「災害の時に何が起きるのか、対策するためには、まず災害のことを知ることが大切です。知ることで予測が立てられ、事前の準備や、災害時に適切な対応をすることができます。できれば、実際に体験して、学びを深めてもらえたら」と呼び掛けます。

かなちゃんTVでも情報発信

センターで流してるガイダンス映像などを「かなちゃんTV」で見ることができます。施設に行けない人も、まずは映像で学んではいかがでしょうか。

ガイダンス映像

映像で災害を体験しよう!津波編

〇抑えておきたい防災ポイント

 災害は、いつ、どこで起きるか分かりません。大切なのは事前の「防災」です。一方で、発生を防ぐことが難しいのも災害の側面です。被害を防ぐための防災に加え、実際に起きてしまった後の準備としての防災も欠かせません。

災害時の「自助・共助・公助」

 東日本大震災の発生を機に、改めて周知が広まったのが『「自助」「共助」「公助」の連携』といわれます。もともと、「自助・共助・公助」は災害に限らず、福祉など地域で支えあい、暮らしの安全安心を守るための要素です。

 「自助」とは、自分で自分を助けること。災害においては、自宅での備蓄品や、耐震化、家具尚の落下防止などの対策が該当します。また災害時の安否確認の伝達手段確保や避難経路の確認なども含まれます。

 「共助」とは、地域などお互いに助け合う支えあいの力。高齢者や病人、こどもなど避難弱者の支援や地域防災訓練などが含まれます。阪神・淡路大震災では、火災の初期消火なども含め、地域住民の助け合いが多くの人命救助につながったそうです。

 「公助」とは、国や県、市町村など行政や、警察・消防などの機関の支援です。災害においては河川工事など災害時の被害を抑える減災工事や、避難所機能、情報伝達機能の充実なども該当します。

 東日本大震災など、大規模災害時では地域全体を災害が襲うため、公助機能には限界があると言われます。公助の機能が地域に行き届くまでの指標の一つが「発生から72時間」です。センターは「まずは72時間を生き抜くための自助、それを支える共助を」と説明します。被害を抑えるためにはそれぞれの連携が欠かせないのです。

7つの防災ポイント

 楽しく防災について学べるのが、2020年にリニューアルした防災Q&Aコーナーです。

 神奈川県では災害に共通する備えとして以下の7点を挙げています。

1、一人ひとりの役割分担を決めておこう
2、危険箇所をチェックしておこう
3、非常持出品のチェックをしよう
4、防災用具などの確認をしよう
5、連絡方法や避難場所を確認しておこう
6、(さらに地震では)安全な空間を確保しておこう
7、地震に強い家をつくろう

県のホームページでも特設ページを設けています。

〇最新避難所事情

 自助・共助・公助における防災訓練と切り離せないのが「避難所」の存在です。災害が発生した時、災害拠点となるのが避難所です。自宅避難の際も、行政発信の情報や避難物資の配給などやはり重要なことには変わりありません。

 自助においては、まずは、自宅や職場などの近くの避難所を確認するとともに、家族などとその情報を共有することが大切です。また、避難所へのルートの確認も行う必要があります。県はホームページで、各自治体の避難所や確認の連絡先を紹介しています。

 共助・公助においては、運営の方法などを確認する必要があります。集団がひとつのところに集まるという特性上、近年は「感染症対策」なども新たな確認点となっています。

コロナ禍の避難所事情

 新型コロナウイルス感染症の流行以降、感染対策をしながらの避難所運営が各地域で進められています。内閣府では、「新型コロナウイルス感染症が収束しない中でも、災害時には、危険な場所にいる人は避難することが原則です」と呼びかけています。それを踏まえ、県では以下のことをポイントに挙げています。

  • 危険な場所にいるときは、避難することが原則です
  • 避難所へ行くことだけが避難ではありません
  • 可能な場合は、親戚や友人の家などへの避難を検討してください
  • 避難所へ衛生物資(マスク・体温計など)を持参してください

 新型コロナの影響で避難所も感染症対策を踏まえ運営することとなります。自分の住んでいる地域の状況を確認して、いざという時にしっかり身を守れるように備えることが大切です。

最新避難所事情ー避難所への避難タイミング

 地震の時と異なり、台風などでは事前にある程度の災害の規模や進行状況が予測できます。そのため、事前に自主避難をすることで、被害を抑えることができると言われています。

 2021年5月、避難を促す警報の表現が変更となりました。発生する風水害の規模が大きくなっており、危険が高まっていることなどが背景にあります。

気象庁HP「防災気象情報と警戒レベルとの対応について」

進化する避難所の設備

 センターの2階には、様々な企業の防災品を紹介するブースがあります。個々のプライバシーを保つパーテーションや、一人でも組み立てられる簡易ベッド、消毒を想定しアルコールに強い素材で作られた防災備品など、過去の災害の時の教訓などを踏まえたものばかりです。中でも簡単に設置でき、個々のプライバシーを守れる「避難所用・紙の間仕切りシステム」は、県内にある慶応大学環境情報学部教授の坂茂さんが開発したもので、熊本地震などでも使われました。

 また、情報の共有のさらなる効率化、スピード化を図るため、防災行政通信網の更新なども進められています。

おわりに 命を守るため日頃から備える防災

 施設の説明の中で、センターが度々繰り返し、注意を促すのが「避難の重要性」です。「いつ、どこで起きるか分からない災害。災害が起きたら、すぐに避難してほしい。それが杞憂だったとしても、被害が無かったことが一番。一度大丈夫だったから次も大丈夫とは限らない」と繰り返します。

 すぐに避難するために必要なのは「事前の準備」と「情報」です。後悔しないために、また、有事にパニックにならないために、センターは「日頃の備え」の重要性を説きます。「防災品の携帯や、天気のチェック、行先の地域情報や避難ルートの確認など、小さなことからで構わない。常に備えることで、災害に強い暮らしづくりを進めていきましょう」と呼び掛けています。

 皆さんも、改めて災害について学び、防災意識を強めるきっかけづくりから始めてはいかがでしょうか。

住所

神奈川県厚木市下津古久280

駐車場あり
定休は以下
毎週月曜日(祝日にあたる場合は翌日)
祝日の翌日(土曜日または日曜日の場合は開館)
年末年始(12月28日から1月4日)

費用

無料/事前予約制

電話

046-227-1700

046-227-1700

9時から16時30分

ホームページ

外部HPリンク

公開日:2022-09-12

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