コロナ禍で廃業した湯河原町の老舗旅館をリノベーションした旅館「夢十夜」が、10月1日に開業した。観光庁、湯河原町、地域経済活性化支援機構(REVIC)、地元金融機関が官民一体で進めるプロジェクトの一環。
湯河原町は、小規模な旅館が立ち並ぶ。近年は旅館に籠る傾向が強いシニア層の宿泊客が大半を占め、旅館周辺の飲食、物販店の廃業が相次ぎ、温泉街の全体の活気が失われつつある。
町では2017年から活性化に着手。官民ファンドを活用した湯河原町の象徴的旅館「富士屋旅館」の再生(19年)や、民間資金による「万葉公園」の再整備(21年)などを行ってきた。取り組みが進む一方で、全体としては旅館産業が抱える構造的課題である、「宿泊施設の投資停滞」「老朽化とサービスの低下」「客単価の低水準化」を繰り返す負のスパイラルから抜け出せない状況が続いていた。
湯河原を温泉地再生のモデルケースに
20年に観光庁、湯河原町、REVIC、地元金融機関らによる「湯河原エリアをモデル地域とした持続可能な温泉旅館街の構想策定プロジェクト」が発足。公的支援機関が中心となり投資を呼び込み、町内の旅館変革プラットフォーム会社が小規模経営困難旅館を買取・長期賃借した上でリノベーションを実施し、民間事業者に運営を委託することで再生を目指す計画がスタートした。
同プロジェクト1号物件となる「夢十夜」は、町内での旅館再生実績を持つ(株)リアルクオリティ(東京都)が運営する。湯河原ゆかりの文豪・夏目漱石の短編集『夢十夜』をモチーフに、館内にはいたるところに本が並び、「時間を忘れて夢に浸れる空間」を演出することで、客層の若返りや客単価の向上などを図る。
9月29日に開かれた開所式で冨田幸宏湯河原町長は「地域の新しい刺激として、活性化につなげたい」と話した。また、12月には2号物件となる旅館も開所を予定。万葉公園なども含め回遊性を高め、人が街に流れる仕組みを作っていく。
観光庁とREVICは、温泉地再生のモデルケースとして、全国の旅館産業の課題解決につなげていく考えだという。