光則寺(長谷)は、1274年5代執権・北条時頼の家臣、宿谷光則(やどやみつのり)が創建した日蓮宗の名刹(めいさつ)である。寺内には、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の詩碑や、日蓮が弟子(日朗)の身を案じて送った手紙「土牢御書(つちのろうごしょ)」の石碑も立つ。
ここに咲く花といえば、初春の頃は蝋梅(ろうばい)。山門を入ると、辺り一面に甘い香りが漂ってくる。そして梅。門前の古木をはじめ、境内の木々が花開き、春の訪れを告げてくれる。
陽春の頃は桜。門前で枝垂桜が咲き始めると、参道の染井吉野も、少しずつサクラ色に染まっていく。裏山では山桜も咲き始める。そして、染井吉野が盛りを過ぎる頃、本堂前では樹齢約200年、市の天然記念物である海棠(かいどう)が鮮やかなピンクの花を咲かせてくれる。
初夏の頃は藤。門前の白藤は、房も長く見応え十分である。境内では、薄紅色や朱色の躑躅(つつじ)も見頃を迎え、紫色を基調とした花菖蒲(はなしょうぶ)も咲き始める。また海棠の下では、日蓮が修業した千葉県の清(きよ)澄山(すみやま)産の山紫陽花(やまあじさい)が、白地に赤い縁取りの可憐な花を咲かせてくれる。
秋には、萩や藤袴(ふじばかま)などの七草が咲き、ピンクの秋海棠(しゅうかいどう)が彩(いろどり)を添える。また、本堂左の池の畔(ほとり)では、彼岸花が赤く咲く。
初冬の頃は紅葉(こうよう)。境内の木々も色づく中、特に、本堂越しに見る裏山の紅葉は、まさに「錦秋の鎌倉」そのものともいえる光景である。
長谷の谷戸に、ひっそりと佇(たたず)む光則寺。日蓮にも縁(ゆかり)の深い、鎌倉屈指の花の寺である。
石塚裕之