太平洋戦争が終わって間もない横須賀を舞台に、戦争孤児たちが貧困と混乱の時代をたくましく生き抜く姿を描いた特集ドラマ「軍港の子 ~よこすかクリーニング1946~」が8月10日㈭、NHK総合で放送される。
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浦賀港が引揚港だった影響もあり、戦争犠牲者があふれていた当時の横須賀。その中には親を失い、社会からも見捨てられた子どもたちが存在したとたという。家もなく、食うや食わずの生活の中で米兵相手の靴磨きやたばこ拾い、時には犯罪に手を染めてその日その日の糊口をしのぐ。そんな生活から抜け出すためにクリーニングの技術を学び、仕事を得て、自らの選択と意思で生きる場所をつくりだしていく──。物語は未来をあきらめず前に進もうとする子どもたちの成長譚として展開していく。
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原作者は伊勢原市出身の西田彩夏さん(32)。主人公のモデルで横須賀市内に実在したクリーニング店店主の孫にあたる人物だ。本人が1歳の時に祖父は亡くなっていたため記憶はないが、生い立ちに興味を抱き記録をたどると、誰も知らないこの地でひとり働き、生活していたことを知った。「祖父と同じように戦後を自力で生き抜かなければならなかった子どもたちはたくさんいたはず」と西田さんは話す。
戦争の被害は広島・長崎に投下された原子爆弾や東京大空襲などで語られることが多いが、「子どもたちにとっての戦争は、終戦後に始まった」ということに思い至った。
「大人と社会を頼れず生きた子どもたち。戦争の残酷な一面を伝えることが平和を考えるきっかけになる」と考え、1枚の企画書にしたためた。今回のドラマは、祖父の生きた時代を下敷きに、横須賀や日本の各地で実際にあった出来事を題材にしたフィクションとして描かれているが、「子どもに対する大人たちの姿は現代の私たちにも通じるメッセージ」と西田さん。軍港の子が問いかける。
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ドラマの撮影は西浦賀の観光農園「ファーマシーガーデン浦賀」で5月から6月にかけて行われた。同地は東京湾要塞の一角を担った「千代ヶ崎砲台跡」の一部。砲台跡や観測所跡、地下施設といった戦跡を良好な状態で遺しており、ロケ地に選ばれた。孤児たちが住処にしていた弾薬庫跡は実際の場所を使用している。同施設の広場には大掛かりなセットが組まれ、イメージとしての横須賀の闇市を再現。〝パンパンハウス〟と呼ばれた米兵相手の娼館なども建てられた。
このほかに時代が進んでクリーニング店として登場する建物は、上町周辺に現存する看板建築の店舗を彷彿とさせる。横須賀市民ならではの見方も楽しめそうだ。放送は午後10時から11時13分。