世界規模の地元企業と茅ヶ崎市のトップ対談が実現
地域の魅力を最大限に生かしながら持続可能なまちづくりを目指す茅ヶ崎市と、ハイテク産業を通じてグローバルに活躍するアルバックがタッグを組み、地域と企業の新たなシナジー(相乗効果)を模索するトップ対談が実現。新年を迎え、地域と企業との共創、そして、さらなる互いの発展に向けて語り合います。
茅ヶ崎市長 佐藤 光さん
佐藤光(さとうひかる)/1969年6月生まれ。94年、米国ミシガン州立フェイリス大学卒、95年衆議院議員河野洋平氏の秘書を経て、99年、神奈川県議会議員選挙初当選。2017年第110代神奈川県議会議長、18年から現職。茅ヶ崎市出身。
アルバック代表取締役社長 岩下 節生さん
岩下節生(いわしたせつお)/1953年2月生まれ。鹿児島大学理学部卒、84年アルバック入社。2005年中国総部長、06年中国法人総経理。 11年取締役、16年取締役専務執行役員、17年7月から現職。熊本県出身。
インタビュアー 政井 マヤさん
1976年メキシコシティ生まれ。元フジテレビアナウンサー。エボラジのメインパーソナリティ。3年前に茅ヶ崎市に移住。夫と3人の子どもの5人家族。お気に入りはヘッドランドから眺める夕焼け
アルバックってどんな会社?
政井 今回、茅ヶ崎市萩園に本社を構える株式会社アルバックの岩下社長と佐藤市長のお二人で、「選ばれる企業、選ばれる街になるために」というテーマで議論をしていきたいと思います。双方が現在取り組んでいる挑戦についてもお聞かせいただきたいと思っています。アルバックについては、産業道路沿いに大きなビルがあることはご存知の方も多いと思いますが、このビルの中で何をしているんだろう?と思われている方もいるかも知れません。
岩下 そうですね。新聞などで紹介されるとき、私たちは「製造装置メーカー」と表現されています。近年、デジタル社会の進展や生成AIの広まりに伴い、戦略物資としての半導体の重要性がニュースで取り上げられることが多くなっていますが、私たちはその半導体を作るための装置を作っている会社です。皆さんが使っているスマートフォンやパソコン、テレビから電気自動車のバッテリーまで見えないところに私たちの製造装置が活躍しています。製造装置に搭載される計測器や真空ポンプなどの機器や材料まで扱っている、世界で唯一の「真空総合メーカー」です。
政井 真空技術というのは、本当に多くの領域に貢献しているものなのですね。
岩下 これからも真空技術が活用される分野は、ますます広がっていくと考えています。
佐藤 昨年11月にはアルバックフェスティバルを開催されましたね。約4500人が来場されたと伺っています。地域に密着したイベントの開催により、街のにぎわいづくりにも多大な貢献をいただいています。
岩下 そう言っていただけて光栄です。このフェスティバルは、当社の事業活動に対する地域の皆様のご理解に感謝する目的で行っているものです。企画から運営まで社員が手作りで行っているんですよ。今回は、来場者の皆さんにアルバックがどんな会社かを知っていただくことに重点を置きました。会社内の見学を通じて当社の事業内容を知っていただいたり、装置の製造現場であるクリーンルームへの入室体験なども行ったんですよ。
茅ヶ崎の魅力とは?
政井 コロナも明け、以前の日常を取り戻した2024年でしたが、茅ヶ崎においてはイベントをはじめとしてにぎわいが際立った年だったと思います。そうした中で、改めて茅ヶ崎の魅力に迫りたいと思いますが、佐藤市長にとってはいかがでしょうか。
佐藤 私が市長になった時、新聞記者から「藤沢は江ノ島があります。鎌倉は神社仏閣があります。茅ヶ崎の魅力は何ですか?」と聞かれて、即答したんです。「人です」と。茅ヶ崎は本当に人が魅力で、一番の売りだと思っています。東京から茅ヶ崎に越して来られた方が、東京では隣に誰が住んでいるかわからなかったが、茅ヶ崎では娘を小学校に送り迎えした際、全然知らない人に「行ってらっしゃい」「気を付けてね」と言われ、東京と違いとてもフレンドリーで、良い意味でちょっとおせっかいな方が茅ヶ崎にはいるとおっしゃっていました。私もそのような方々がまちの魅力を形成していると思います。
政井 私も3年前に引っ越してきましたが、新しく移住した人たちに対しても皆さん大らかで親切にしてくださる、そんな文化がありますよね。
佐藤 人が魅力。みんな一貫してそれを言ってますね。
岩下 私自身、茅ヶ崎出身ではないんですが、茅ヶ崎に来て、これは素晴らしいなと思うところは、街が適当なサイズ感で、道路が曲がりくねってるところです。街中でダンプカーやトラックがあまり走っておらず、代わりに自転車が走っている。これはいかにも暮らすのに最適な街ですね。アルバックグループには、約6200人の社員がいますが、そのうち約1000人が茅ヶ崎で勤務しています。茅ヶ崎に住んでいる社員も多くいますので、このような環境は魅力的だと思います。私は常々、「会社を支えているのは社員であり、社員の皆さんを支えているのは家族と健康です」と社員に話しています。本社がある地としての茅ヶ崎は、やはり社員にとって働きやすく、その家族にとっても住みやすい場であって欲しいと思います。私たち企業としてはこれからもさらに社員を増やしていきたい。そのためには皆がここに住みたいという街になることが大切です。
佐藤 知り合いの息子さんが茅ヶ崎に移住されてきまして。それで「何でですか?」と聞いたら、サーフィンをした後のその曲がりくねった道を、余韻で楽しむのが良いんだと。その途中にはたくさんの地元の店があって。そういうおしゃれさも大事で魅力だと思います。
政井 アルバックでは、例えば、入社をきっかけに東京など別の都市から茅ヶ崎に住まわれるようになった方もいらっしゃいますか。
岩下 いますね。ある社員は、入社を検討しているとき、最終的に背中を押したのは、奥様の「茅ヶ崎に住みたい」という一言だったと言っていました。海も山もあり、のんびりとした雰囲気が子育てをするのに良いからと。
佐藤 茅ヶ崎市は、東京23区、横浜、川崎といった政令都市を除く転入超過数が23年に日本一です。
政井 20代、30代、40代の現役世代が茅ヶ崎に越してきているそうですね。
佐藤 横浜から30分、東京から1時間と利便性が良く、都会過ぎず、田舎過ぎない、ちょうど良い雰囲気も魅力の一つです。茅ヶ崎の自然な、落ち着いた環境は心地よく感じられますし、それが子育てに適した環境を求めて若い世代が増えている理由です。
岩下 そうした環境が社員の創造性を高めることにつながっているとも思います。萩園にある当社の本社工場からは、富士山の雄大な景色を一望できます。社員たちは昼休みになると、食堂や屋上から富士山や相模湾を眺めてリフレッシュしていますよ。アルバックは、半導体製造装置などの最先端の技術開発を手がける会社ですが、こうした自然を感じられる環境で働くことが、気分転換にもつながっていると思います。新しい発想やアイデアは、そういった余白の時間から生まれるものなのかも知れません。
発展に向けた茅ヶ崎市の課題
政井 アルバックのようなグローバルに活躍する企業が本社を茅ヶ崎に構えて活躍されているのはありがたいことです。さらにこの茅ヶ崎が発展していくための課題は何でしょうか。
佐藤 今茅ヶ崎に増えている20代から40代の人たちをどうやって引き止めていくのかが大きな課題です。そのためにも、子育て世代への応援や子どもたちの成長の支援に取り組んでいかなければならないと考えています。2025年はいよいよ7月に道の駅「湘南ちがさき」の開業が予定されていまして、農産物や水産物などの市の物産の販売と観光の新たな拠点となります。市民だけでなく市外の方にも来ていただき、茅ヶ崎に愛着をもつ人を増やし、街のにぎわいを創っていきたいと思います。
政井 アルバックグループには、海外のグループ会社や拠点が多くあり、3000人以上が海外で仕事をされているとのことですね。海外の社員から見た茅ヶ崎の印象はどのようなものでしょうか。
岩下 当社には、社員やお客様など、日々多くの方が海外から訪れています。訪問された方々には、仕事の話だけでなく、この街の魅力も知っていただき、心に残る体験をしていただきたいとも思っています。先日、茅ヶ崎を訪れた海外の社員は、茅ヶ崎の象徴となるものをもっとアピールした方が良いと提案してくれました。ブランド力を高めるということですね。私が長く駐在していた中国の話ですが、上海市では年に一度、世界中の大企業のトップを集めて上海市長にアドバイスするという会議があるんですよ。各国の大企業のトップが来て陳情や質問を出して喧々諤々と議論する。このように、異なる立場の人々の意見を出し合う機会は貴重だと思います。
佐藤 ハワイのホノルル市・郡とは姉妹都市友好協定を結んでいますが、昨年10月に10周年を迎え、ホノルル市の議長さん、副議長さんが茅ヶ崎へ来られた際、茅ヶ崎市の雰囲気がホノルル市に似ていて良いと言われました。昨年は茅ヶ崎の小学生がハワイに行き、今年の3月にハワイの小学生が茅ヶ崎に来るという交流ができています。これからもっとホノルル市・郡との相互交流を深めていきたいですね。
政井 茅ヶ崎には歴史的、文化的な魅力もたくさんありますので、そうしたものを再発見できる機会があるといいなと思います。
アルバックの魅力と地域貢献
政井 アルバックさんの地域貢献についても伺いたいと思います。
佐藤 アルバックと茅ヶ崎市は災害協定を結ばせていただいていますが、2019年の台風19号の際は、本社を避難所として提供してくださり、1000人近い市民を受け入れてくださった。大変ありがたく思っています。
岩下 地域の皆様の安全のために協力することは、地域で事業を営んでいるものとしての責務だと思います。先ほど佐藤市長は、街のにぎわいを創っていきたいとおっしゃっていましたが、当社では、アルバックの人材と知識を活かし、未来を担う子どもたちに科学の楽しさを伝える活動を行っています。「真空実験教室」というもので、真空中で起こる不思議な現象を、実験を通して体験していただくというものです。主に小・中学生や高校生を対象として開催しています。この教室をきっかけに、科学に興味を持つ子どもが増え、未来の科学技術の発展に少しでも貢献できればという思いから、長く続けている活動です。
佐藤 「茅ヶ崎を共に創っていく」という意識で取り組んでいただけていることは非常にありがたく、こうした取り組みがさまざまな人たちに伝わって、街の文化となり、茅ヶ崎への深い愛着につながるのだと思います。茅ヶ崎市は、地域の企業や市民の皆さんの協力で成り立っていると強く感じます。今回対談させていただく中で、皆さんと一緒にさらに良い街にしていきたいという思いを新たにしました。
茅ヶ崎とアルバックの未来
政井 茅ヶ崎とアルバックの未来についてお伺いしたいと思います。
佐藤 これからもアルバックさんのような世界で活躍している企業が茅ヶ崎にあるということをどんどん発信していく。行政としてアルバックさんのような企業に対し、PRを含めて何ができるのかをもっと考えなければならない。そうすることで例えばアルバックで働きたいとか研究職を目指したいといった動きをつくりたい。そして、将来的には茅ヶ崎に家族で住み続けてくれれば。さきほどあった奥様のように、「茅ヶ崎で住みたい」と選ばれる街づくりをしていくことが、引いては企業誘致にもつながっていく可能性もあると思います。
岩下 アルバックはこれからも、日本国内でも海外でもビジネスを伸ばしていきたいと考えています。そのような中で、この本社工場の機能を充実させることはますます重要になってきます。特に、可能性を秘めた若い人たちを多く受け入れていくことは重要ですので、働く場として企業の魅力を伝えていくのは当然のこととして、茅ヶ崎市には、街の魅力を発信し、行政サービスや住みやすい環境を整えてもらうことに期待しています。当社には茅ヶ崎在住の外国人が多く在籍していますが、茅ヶ崎の地にずっと留まりたい、というぐらいの暮らしやすい街が理想ですね。私たちも選ばれる企業であり続けるために、イノベーションに果敢に挑戦し続け、産業と科学の発展に貢献してまいります。
政井 今年は巳年、変化や成長の年と言われています。2025年の抱負、メッセージをお願いします。
佐藤 改めて今年7月に道の駅がオープンします。私はそこから茅ヶ崎に限らず、さまざまな情報が得られるようにしたい。私は茅ヶ崎にだけこだわっていないんです。道の駅は茅ヶ崎市と神奈川県でつくっていますから、江の島の情報でもいいし、鎌倉でもいいし、平塚で七夕まつりがあるとか、道の駅に行けばいろいろな地域の情報が手に入るよと。たとえ茅ヶ崎が目的地ではない人でも道の駅に寄って情報を得てくれればいい。茅ヶ崎市だけで収めるのではなくて、他エリアの資源を上手に活用しながら、面白い道の駅にしていけたらと考えています。
岩下 とても良いことですね。そこに行くといろいろな情報が集まる。私たちの生活の中で欲しいのはやっぱり情報なんですね。道の駅に行くと情報源にアクセスできる、とても大事な視点です。私たち企業も、常に外の情報を得るため、人と人との関わり合いや対話を大切にしています。社会の変化はますます急速になり、お客様の要望も複雑で多様なものになっています。例えば、最近、お客様からソフトウェアに対する要望が増加しています。これまでは、装置など良いハードウェアをつくることが評価されてきましたが、これからは、ソフトウェアやデータの活用で付加価値を出していくことこそが重要になってきます。外の世界の変化を敏感に感じ取り、自分たちも変化していくことがますます重要になっています。
政井 確かに情報、データに付加価値をつけて発信していくと、ますます魅力がたくさん伝わったり、新たな情報を発掘できたりしますよね。私たちもコミュニティFMとして、その一翼を担わせていただきたいと思います。
佐藤 私たちも来年大きく変わっていく年にしたいと考えています。茅ヶ崎市へのご支援を今後ともよろしくお願いいたします。
岩下 アルバックとしては、巳年の今年は、さらに脱皮をして、変化・発展していく年にしていきます。市況の上がり下がりはありますが、大きなトレンド、例えば、半導体、ビッグデータ、AIがますます拡大していくという流れは変わらないと考えています。私たちは、まさにこの領域で大きく成長していきたいと、考えています。
政井 茅ヶ崎市の行政、企業のトップのお二人に貴重なお話を伺いました。ありがとうございました。