企業版ふるさと納税(正式名:地方創生応援税制)は、国が認定した地方公共団体の地方創生の取り組みに対し、企業が寄附を行った場合に、法人関係税から税額控除する制度のことです。
今回、秦野市へ企業版ふるさと納税を活用して寄附を行った企業3社に、取材をしてきました。
<目次>
1.日本発条株式会社
2.株式会社ウイルプラスホールデイングス
3.日本生命保険相互会社
1.日本発条株式会社

日本発条株式会社の本社外観(横浜市金沢区)
2022年から4年間連続(2025年3月現在)で寄附を行っているのが、日本発条株式会社です。
「ニッパツ」の名前で知られる同社。企業版ふるさと納税についての考えを、常務執行役員で企画管理本部本部長・経営企画部部長の池尻修さんと企画管理本部IR・広報部部長の橘和子さんにお聞きしました。

取材にご対応いただいた(左から)橘部長と池尻常務
日本発条株式会社は、1939年に設立された日本を代表するばねメーカー。国内に13工場、国内外にも多くのグループ会社を持ち、自動車用スプリングをはじめ、自動車用シートやエンジン用バルブスプリング、ハードディスクに使用されるサスペンションなどを製造しています。
特に自動車分野では、同社のばねは世界の車の4台に1台の割合で採用されており、生活の中になくてはならない「縁の下の力持ち」企業です。
企業版ふるさと納税への想い
「企業としてビジネスを成長・発展させることはもちろんですが、拠点を構える地域への貢献も重要なミッションです」と池尻さん。従業員はもとより、投資家、協力会社、地域の人々など、企業を取り巻く「”人”を大切にする」ことを重視し、その手段のひとつとして企業版ふるさと納税の活用を行っています。

金属材料を加熱して製造する自動車用懸架ばね
ニッパツグループは日本全国26自治体に主要拠点を置いており、「グループのすべての地域の皆様に感謝し、貢献したい」という想いから、企業版ふるさと納税を導入する自治体に寄附を行っています。秦野市には、主に自動車や家電向けのねじの製造・販売を行うグループ企業「株式会社トープラ」があることから、寄附を継続しているそうです。
子どもの教育、子育て世代への支援を

学びの基盤プロジェクト:市立東小学校4年生がタブレット端末で教科調査(国語・算数・質問紙)を行っている様子
同社が寄附対象として選んだのは「未来を拓く子育て・教育プロジェクト」。橘さんは「当社は、地域貢献について①自然環境保全活動 ②子どもへの教育支援 ③子育て世代への支援の3つを重点に置いており、このプロジェクトは当社の考え方に合致するものでした」と話します。
同社の寄附金は、公立こども園のICT化や教育水準の改善・向上に取り組む「学びの基盤プロジェクト」、「はだのE-Lab(イーラボ)」の開設などに役立てられています。

学びの基盤プロジェクト:市立東小学校と東中学校の先生が「今後の授業改善」「教育活動の充実」「児童・生徒指導のアプローチ」を分析・検討している様子
企業版ふるさと納税のメリット
企業版ふるさと納税を活用するメリットについて「自治体の想いに共感して申し込みできるので、Win-Winな関係を作りやすいところ」と話します。また、使い道がわかりやすく、企業としても「地域のお役に立てていることを実感できる」そうです。
最後に、企業版ふるさと納税を検討している企業に向けてメッセージをいただきました。
「自社の価値を最大限にお届けすることが企業の使命のひとつ。地域社会への積極的な貢献も大きく期待されている中で、企業版ふるさと納税は企業と地域、お互いにメリットがある仕組みだと思います」
【企業情報】日本発条株式会社(ニッパツ)
本社:神奈川県横浜市金沢区福浦3-10 https://www.nhkspg.co.jp/
2.株式会社ウイルプラスホールディングス

株式会社ウイルプラスホールディングスの成瀬隆章代表取締役社長
株式会社ウイルプラスホールディングスは、輸入車の正規ディーラーとして全国へ規模を拡大してきた企業です。マルチブランド戦略とM&Aを軸に成長を続け、近年では中古車の輸出事業にも参入しています。
今回は取締役・専務執行役員の宇田川宙(うだがわひろし)さんに話をお聞きしました。

話をお聞きした宇田川さん
17のブランド(2025年3月現在)を取り扱う同社。グループの方針として掲げるのは、企業として事業拡大はもちろんのこと、自動車産業におけるCO2排出量の削減を目指し、「社会的価値向上」と「企業価値向上」を両立させること。
宇田川さんは「私たちが扱うヨーロッパブランドにはEV車(電気自動車)が多く、EV車の販売でCO2の削減に寄与しています。また、中古車の輸出により、リユースを海外で促進しています」と話します。

同社が取り扱う車輛(MINI)
企業版ふるさと納税への想い
同社が企業版ふるさと納税での寄附を導入したのは2021年から。 理由は、自社の事業展開エリアにある自治体を選べるため、地域貢献を実感しやすいという点でした。
2023年からは、従業員の意識向上に繋げようと「サステナビリティコンテスト(サスコン)」を実施。従業員一人ひとりが地域課題や社会貢献について考え、寄附先を提案するというもので、従業員の主体的な地域貢献への意識改革を狙っています。
快適な自動車ライフでCO2排出量削減に寄与

新東名秦野丹沢サービスエリア・インターチェンジ周辺
同社の『輸入車を通して、豊かさ・楽しさ・喜びを分かち合う』という理念に合致するものとして、2024年にサスコンで選ばれたのが、秦野市の「新東名・246バイパスの最大活用プロジェクト」でした。「渋滞を緩和し、快適な自動車ライフを送ることがCO2排出量削減に繋がる」と選定したそうです。
また、「企業版ふるさと納税を通して自治体に当社の理念を知ってもらい、CO2排出量削減へのアクションを起こしてほしい」という想いもあります。

プロジェクトのひとつ「表丹沢魅力づくり推進事業」。新東名の開通により人気が高まる表丹沢をOMOTANライターが紹介
企業版ふるさと納税のメリット
「社会貢献の面もありますが、最も大きなメリットは従業員の意識改革ができるという点」と宇田川さん。従業員からアイデアを募ることで、企業理念の浸透や意識改革の促進が期待できるそうです。
最後に、企業版ふるさと納税を検討している企業に向けて、メッセージをいただきました。
「企業版ふるさと納税は、従業員参加のスキームを作ることで、企業理念を浸透させるツールになり得ます。自社のため、従業員のため、そして地域のためになる制度です」
【企業情報】株式会社ウイルプラスホールデイングス
本社:東京都港区芝五丁目13番15号芝三田森ビル8階 https://www.willplus.co.jp/
3.日本生命保険相互会社
日本生命保険相互会社は、約1490万人の個人と約34万人の法人の顧客を抱える生命保険会社です。同社平塚支社の支社長・三野威郎(みつのたけお)さんに話をお聞きしました。

お話を聞いた平塚支社の三野支店長
「当社は生命保険を通じて安心をお届けしている企業です」と三野さん。顧客から預かった約97兆円を超える資産を運用する世界有数の機関投資家としての顔も持ち、創業135年の歴史の中で「保障責任を全うし、お客様に安心・安全をお届けする」という理念を貫いてきたといいます。
その理念を体現する活動の一つとして、健康増進や青少年の健全育成などの分野で各自治体と連携協定を結ぶなど、全国の支社単位で地域課題解決や地域活性化に向けた取り組みに力を入れてきました。

健康増進のため、がん検診の受診を進める職員
企業版ふるさと納税への想い
同社では地域貢献への取り組みと親和性が高く、自治体からの要望も多かったことから、2023年度に企業版ふるさと納税を試験的に導入。2024年度から本格的な活用を始めました。
秦野市には平塚支社管轄の秦野西営業所・秦野営業所の2拠点があります。「当社としても約60人の社員が働く大切な地域であること、また2022年に『健康増進・疾病予防に関する協定』を締結し、秦野市が実施する健康増進事業に参画していることから、寄附を決定しました」
「地域とともに発展する」企業として
同社が2024年度の寄附先のひとつに指定したのは「未来を拓く子育て・教育プロジェクト」。
子育てや教育などの青少年健全育成事業は「地域の発展や活性化に非常に重要なもの」と位置付け、これまでも日生劇場(東京都千代田区)への小学生招待や学校での金融・保険に関する出前授業など、全社的に取り組んできました。

公立放課後児童ホームでの様子
しかし、子育てや教育に関する分野は、秦野市との協定に基づく健康増進事業の支援から外れるため、企業版ふるさと納税を活用し、個別に支援を行うことにしたそうです。「地域とともに発展する、安心を提供する…これが私たちの使命。地域課題に対して何ができるか様々な視点でアプローチし、ともに発展していきたいと考えています」
同社の寄付金は、地域で安心して子育てができる環境づくりの推進のため「放課後児童健全育成推進事業」に役立てられています。
企業版ふるさと納税のメリット
寄附を通じて自治体に貢献でき、地域の人々に企業の取り組みを知ってもらう機会になるのが企業版ふるさと納税。平塚支社では2024年度の寄附が初回となるため、三野さんは「社員にも周知し、誇りを持って仕事をしてもらえるようにしたいですね」と話していました。
最後に、企業版ふるさと納税を検討している企業に向けて、メッセージをいただきました。
「10万円から実施できるため、企業としても活用しやすい制度です。多くの企業が少しでも活用し、それが積み重なることで地域の課題解決や活性化につながっていきます。ともに地域貢献を進めていきましょう!」
【企業情報】日本生命保険相互会社
本社:大阪府大阪市中央区今橋3-5-12 https://www.nissay.co.jp
編集後記:企業版ふるさと納税で法人税の軽減効果が得られるメリットがあるのはもちろんですが、取材する中で感じたのは、企業の理念や社会貢献に対する強い想いでした。企業版ふるさと納税は、地域貢献を通じて企業の持続的な成長を促す有効な手段の一つと言えるのではないでしょうか。