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仕事も芝居も、自分を知るために。熊谷おはるさんが茅ヶ崎で続ける表現の形

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仕事も芝居も、自分を知るために。熊谷おはるさんが茅ヶ崎で続ける表現の形

舞台に立ち、役を演じる。声だけで、言葉や物語を届ける。熊谷おはるさん(熊谷春香さん)は、サラリーマンとして働く傍ら俳優・声優・ナレーターとして活動しています。

大学では演劇を専攻、卒業後はスタートアップ企業で広報を中心に働きながら、一度は離れていた芝居の世界へ再び戻ってきました。

仕事と表現活動。一見すると別々に見える二つの経験ですが、おはるさんにとってはどちらも「人を知り、自分を知る」ことにつながっています。

そして約1年半前、夫婦で茅ヶ崎へ移住。

海や空、街のゆったりとした時間の流れは、東京で暮らしていた頃とは違う感覚を、おはるさんにもたらしているといいます。

役者になる。そのつもりで選んだ道

おはるさんが芝居を始めたのは中学生の頃。ゲームが好きで、キャラクターに声を吹き込む声優という仕事に興味を持ったことが、表現の世界への入口でした。高校生の頃には声優の養成所にも通い、大学では演劇を専攻。役者になることを目指して学び続けました。ところが大学4年生の秋、現実に直面します。

「役者だけで食べていくのは難しいんだ、ということにその時初めて気づいて。仕事をしないと生活できない、と(笑)」

周囲ではすでに就職活動を終えている学生も多い時期。そんな中、おはるさんが飛び込んだのがスタートアップ企業の世界でした。最初に関わった会社との縁も、おはるさんらしいものでした。

興味を持っていた企業から展示会のチケットをもらい会場を訪れると、その会社のブースは多くの来場者で大忙し。そこで「手伝います」と声をかけ、そのままスタッフとして参加しました。さらに、その日の出来事を漫画にしてSNSに投稿すると大きな反響があり、翌日も展示会を手伝うことに。最終的には広報のインターンとして働くことになりました。

「目の前のことを、とにかくやってみようという感じでした。経験したことがないことでも、あまり物怖じしないタイプなんです」

その後はARやVRなどを含む「XR」と呼ばれる技術を扱うスタートアップ企業を中心に、PRを軸に人事などにも携わりました。演劇とは違う世界に見えますが、本人にとっては意外な共通点もありました。

「XRも、空間をどう演出するかという技術なんですよね。どこを見てもらうのか、どう視線を誘導するのか。そう考えると、演劇と近いところがあるなと思っていました」

舞台では、限られた空間の中で観客に何を見せ、何を感じてもらうのかを考える。一方、XRも、現実の空間とデジタルの表現を組み合わせながら、体験する人の視線や感覚をつくっていきます。XRという新しい技術の世界で働いた経験は、後に再び芝居や声の仕事へ戻るおはるさんにとって、もう一つの表現を学ぶ時間にもなっていました。

役者として舞台に立つおはるさん(左から三番目)。演劇と仕事には「空間を演出する」という共通点があったといいます。

社会人になった今なら、もう一度向き合える

会社員として働いていた時期、おはるさんは芝居から一度離れていました。再び表現の世界に戻るきっかけになったのは、大学時代の友人との再会です。声優として事務所に所属したという友人の話を聞き、かつて通っていた声優養成所のことを思い出しました。高校生の頃は、練習を十分にできなかったり、目の前の課題から逃げてしまったりした経験もあったといいます。

「自分の中では不完全燃焼というか、少し心残りがあったんです。でも社会人として働いてきて、自分自身も成長したという感覚があって。今なら、ちゃんと向き合えるんじゃないかと思いました」

再び養成所の門をたたき、声の表現を学び直しました。養成所では、事務所に入所するためのオーディションから始まり、レッスンを重ねながら少しずつ人数が絞られていく厳しい世界を経験。事務所への所属には至りませんでしたが、それで声の仕事を諦めたわけではありません。現在は知人からナレーションの依頼を受けたり、ゲーム作品のセリフを担当したりと、自ら仕事の幅を広げています。

社会人になって、一度は離れた演劇の世界に戻ってきました。

「働いてきたこと」も、声の強みになる

声優やナレーターとして活動する中で、おはるさんが強みだと感じているのが、これまでの社会人経験です。スタートアップで広報を担当し、企業のブランディングやプロモーションに携わってきたからこそ、原稿に書かれている言葉の背景や、企業が何を伝えようとしているのかを考えながら読むことができます。

「先生からも、『書いてあることを理解して読むのがうまい』と褒めていただいたことがあります。広報として、何をどう見せるのかを考える仕事をしてきたことも活きていると思います」

企業の紹介映像やプロモーション、イベントのMCなどは、特にこれまでの経験を生かせる分野です。一度芝居とは違う世界で働いた時間は、決して遠回りではありませんでした。

伝えたいことをくみ取ること。相手の立場を考えること。そして、それをどう表現すれば届くのかを考えること。社会で身につけたものが、再び芝居や声の世界へ戻った今、おはるさんの強みになっています。

社会人としての経験が演劇と向き合う上でも強みになっているといいます(右から3番目がおはるさん)。

芝居をしながら「自分とは何か」を探している

直近では、実際に起きた事件を題材に人物の背景を掘り下げていく作品を短期間で完成させるという舞台のワークショップに参加したというおはるさん。

短期間で舞台を演じ切るためには、台本を覚えるだけでは足りないといいます。演じる人物はどのような人生を歩み、なぜその行動を取ったのか。資料を読み、背景を調べながら、役と向き合っていきます。そこまでして芝居を続ける理由を尋ねると、おはるさんから返ってきたのは「自分探し」という言葉でした。

「役をもらって、その人の視点で世界を見ることがまず楽しいんです。役者同士でコミュニケーションを取っていくと、今まで見えていなかった自分が見えてくることもあります」

舞台上では、役として相手と向き合いながら、一方では自分自身を冷静に見る視点も必要になります。そのやり取りの中で、自分が何を感じ、どう反応するのか。毎回、新しい自分に出会う感覚があるといいます。

「自分とは何なのか、人間とは何なのか。それをずっと考えている気がします。たぶん一生答えは出ないんですけど、その問いを考える方法として、私には演劇がすごく合っているんだと思います」

売れることだけを目的にするのではなく、人生を考えるための「ライフワーク」として芝居に向き合う。長く続けてきたからこそ、おはるさんは今、そんな距離感で演劇と付き合っています。

役を演じることで新たな視点が得られたり、これまで気づかなかった自分自身の発見につながることも。

海を眺めながら「こういうの、いいよね」

茅ヶ崎との出会いは、ご主人とまだ結婚する前。二人とも海が好きで、デートで湘南を訪れることがありました。その中で一度訪れたのが茅ヶ崎です。海水浴シーズンではない、人の少ないサザンビーチ。二人で砂浜に座り、ただ海を眺めて過ごしました。

「こういう時間って、いいよね」

そんな何気ない会話が、移住の始まりでした。その後、二人で何となく物件情報を見始めると、藤沢や辻堂、茅ヶ崎の物件が自然と候補に。お互いに「この人は湘南に住みたいんだな」と思っていたそうですが、実際には、それほど深く考えていたわけではなかったと笑います。ちょうどよい物件に出会ったこともあり、そのまま茅ヶ崎で暮らし始めました。

空の広さが、自分をフラットに戻してくれる

それまで暮らしていたのは、東京の都心部。茅ヶ崎に引っ越してきて、最初に感じたのは「時間の流れ方の違い」でした。

「空が広くて、雲が流れているのが見えるんです。東京にいる時は、空のことを気にする余裕なんてなかったなと思って」

自転車で10分ほど走れば海。必ずしも毎日のように海へ行くわけではありません。それでも「いつでも行ける場所に海がある」というだけで、気持ちに余裕が生まれるといいます。北へ向かえば、畑や緑の残る風景もあります。

「自然とか、身の回りの環境に目を向けさせてくれたのが、茅ヶ崎での暮らしなのかなと思います。のんびりしていて、自分をフラットな状態に戻してくれる感じがあります」

それは、役者として人や自分自身を見つめるおはるさんにとっても、大切な時間です。

いろいろな場所で、いろいろな自分に出会いたい

これからやってみたいことを尋ねると、おはるさんは「所属するコミュニティを増やしたい」と話してくれました。演劇の世界だけにいるのではなく、違う仕事をする人、違う価値観を持つ人とも出会いたいさまざまな場所に身を置くことで、自分一人では気づけなかった視点に出会えるからです。茅ヶ崎で地域の人たちとつながり始めたのも、その一つです。

「知らない人たちに囲まれるからこそ、もらえる視点もあると思っています。いろいろな場所に行って、いろいろな人に会って、話をしていきたいです」

仕事をし、芝居をし、声で誰かの思いを伝える。そして新しい場所へ飛び込み、そこでまた知らなかった自分に出会う。「自分とは何か」という問いの答えを探しながら、おはるさんの表現はこれからも続いていきます。

熊谷おはる(熊谷春香)

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住所

神奈川県茅ヶ崎市

公開日:2026-10-20

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