言い伝えが遺る『影向寺の乳イチョウ』
市民生活や地域風土に根ざして継承されてきた文化財を新たに顕彰する川崎市地域文化財。このほど今年度の選定結果が発表され、宮前区内からは唯一、言い伝えが遺る『影向寺の乳イチョウ』が選ばれた。現在イチョウの木は10年に一度の枝切りされた姿を見ることができる。
イチョウの樹齢は推定約650年、樹高28メートル、胸高周囲は8メートルを超える巨木で、かながわの名木100選にも指定されている。
イチョウは川崎市のランドマーク的存在
言い伝えによるとその昔、乳が出ずに困り果てた母子が、幸区小倉の池に身投げしようとしたところ光を発見。ついていくとこのイチョウの前で「乳柱(気根)を削って汁を飲め」とのお告げがあり、その通りにすると乳が出るようになったという。市文化財課担当者は「イチョウは『川崎町の樹50選』にも選ばれるなど、ランドマーク的存在として地域に親しまれている。また現世利益信仰の薬師像を祀る同寺の歴史や特徴を表しており、今回文化財として選定した」と話す。
『芭蕉「春の夜は」の句碑』『手水石』『力石』も
同寺は前年度にも有形文化財(歴史資料)として『芭蕉「春の夜は」の句碑』が選ばれた他、有形民俗文化財として『手水石』『力石』も選定されており、今回は動植物及び地質鉱物等関係の記念物として、同寺4つ目の選出となった。加藤浩照住職は、「近隣の小学生らが見学に訪れる。これをきっかけに、より寺に親しんでくれたらうれしい」と話した。
10年に一度の姿
イチョウは数年前に台風の被害で落枝したことから、10年に一度手を加えており、現在はちょうど剪定(せんてい)後の「丸裸」のイチョウの巨木を見ることができる。
影向寺を含む古代橘樹官衙遺跡群は、市内初の国史跡に指定され、昨年で5年となった。これを契機に今年度から3年にわたり、考古学や古代史研究の第一線で活躍する研究者等を講師として招いての、連続講座が予定されている。