賃貸アパート経営で、バカにならない「ガス代」
お風呂の給湯器やキッチンのコンロなど、私たちの家庭生活で欠かせない「ガス」。だからこそ、1円でも安いに越したことはありません。アパートなど集合住宅を管理する大家さんなら、なおさら少しでも得をしたいものです。そこで、ガスの種類や料金の仕組みについて、東京・神奈川を中心にコンサルタントとして実績のある、中小企業診断士の堅山英一さん(2020ニッポン多摩区事務所/本社・東京都)に話を聞いてみました。
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【目次】
都市ガス自由化で「選べる時代」へ
プロパンガスは昔から自由
LPG会社(業者)とお客さんの取引関係
LPG会社(業者)の考え~お客さんは営業権(財産)
LPG会社(業者)の考え~防戦
アパート入居者のLPG料金は…?!
LPGで、大家さんへのメリット「大」
都市ガス自由化で「選べる時代」へ
少しだけ前置きで、都市ガスの話をします。もともと水道と同じ公共料金で、東京ガスや大阪ガスなど国の認可を得た都市ガス会社が、各地域で「独占」で供給を行っていました。「小売料金は国が設定していましたが、独占供給なので、料金を下げて顧客を獲得する戦略は必要なかったのです」と堅山さんは説明します。
消費者が安い料金でガスを買えるように、2017年4月に都市ガスの小売事業が自由化されました。数社が独占していた都市ガスの小売市場でしたが、登録を受けた事業者であれば誰もが参入できるようになりました。「消費者はガス会社を自由に選べるようになったのです。自由化により小売料金の規制もなくなり、会社が料金を設定できるようになりました」
プロパンガスは昔から自由
プロパンガス(以下・LPG)はずっと昔から自由市場で、消費者は好きなようにガス会社を選ぶことができました。
LPGが日本の一般家庭で使われるようになったのは1950年代です。薪や炭に代わって使われるようになりました。LPG事業の正しい管理・運営を目的に、1967年に「液化石油ガスの保安の確保および取引の適正化に関する法律」が制定されました。
LPG販売事業者として登録を受ければ、誰でもガスの販売を行うことが可能なのです。国はLPG料金を規制していないので、LPG会社(以下・業者)は料金を好きなように決めることができました。値上げや値下げも自由に行うことができます。
電気や都市ガスはこれまでずっと公共料金で、自由化はつい最近だったため、LPGも「光熱費=公共料金」のイメージは依然として強く、LPGが自由化されていることを知らない方も多いようです。
LPG会社(業者)とお客さんの取引関係
堅山さんはこんな例え話をしてくれました。「ペットボトルのお茶が自動販売機で150円だったとしても、スーパーでは88円で売っていることもあります。1.7倍の開きがあります。お客さんは150円で買ってもいいし、88円で買うこともできます」
「LPGはどの業者から買っても同じ品質です。違うのは料金とサービスです。料金は業者とお客さんの間で、自由に決めることができます」ということだそうです。
「LPGもお茶と同じように、1.7倍の開きがあります。例えばAさんは8,500円で、Bさんは5,000円で買っています。同じ数量をです。LPG料金が仮に8,500円だとしても、お客さんはそれが高いのか?安いのか?分かりません。高いと分かったとしても、どの業者が安くて、サービスが良いのか悪いのかも分かりません。お客さんは何もできないことになります」
なるほど、うなずけます。「このような事情から、業者とお客さんの取引は長くなります。おじいさんの時代からの取引…なんていうのも珍しくないことです」
取引が長いお客さんほど、料金は高いのだそうです。その理由は「業者が『お客さんは高い料金であることを知らない。高い料金のままでも他の業者に移らない』と思っているからです」と堅山さん。
さらに「戸建ての方と比べて、アパートの入居者の方のLPG料金は、よほどのことがない限り高いです。ペットボトルのお茶で言えば、150円~200円レベルです」とも。
LPG会社(業者)の考え~お客さんは営業権(財産)
ガス会社(業者A)はお客さんに対して1~2カ月に1度、LPGのボンベを運搬します。お客さんは毎月、料金を支払います。支払いが一定期間なければ、業者は供給を止めます。「『業者がお客さんより優位』にあるのです。LPG業界は、M&A(経営の売買)が日常的に行われています。お客さん1人につき、数万円で売買されています。お客さんは業者にとって営業権(財産)なのです」と言います。
LPG会社(業者)の考え~防戦
ペットボトルのお茶のように誰もが料金を知ることができる商品と違い、LPGの料金の相場は分かりません。「お客さんが『自分が契約しているA業者の料金が高いのか?』を知る唯一の方法は、他の業者(以下「業者B」)にチェックしてもらうことです。取引が長いお客さんは間違いなく高いです」と堅山さん。
「業者Aはお客さんに『業者Bによる料金のチェック』をしてほしくありません。なぜなら『料金が高いことがばれる→業者Bに乗り換えられる→営業権がなくなる』ことを恐れます」という図式だそうです。業者Aはどうするのでしょうか?
「お客さんが『業者Bと話をしない』ようにします」。業者Aはお客さんに「防戦チラシ」を渡すのだそうです。チラシには次のように書いてあります。
”訪問営業、飛び込み営業にご注意ください!!”
「お客さんに『業者Bは悪徳業者』という印象を与えるのです」と堅山さん。「たいてい『○○協会』などと書いてあります。これでお客さんはチラシを信用します。業者Bが訪問したとき、100人中99人のお客様は『ウチはいいよ。今の業者がちゃんとやってくれている。二度と来ないで』と、業者Bを追い返します。チラシの効果は大です。お客さんはLPG料金を安くする機会を失い、業者Aは取引が継続できます。料金は高いままで…」と懸念します。
アパート入居者のLPG料金は…?!
業者がアパートにLPGを供給させる権限は、大家さんが持っています。例え入居者の友達がLPG業者だとしても、入居者に業者を切り替える権限はありません。入居者全員が同じ業者でないとダメだからです。
「LPG料金は入居者が払います。大家さんはLPG料金が高いか安いかに関心がありません。ガス代を払わないからです」と堅山さん。
どんな商品でも消費者が値段(買い値)を決めます。ペットボトルのお茶で言えば、自販機で150円で買うことも、スーパーで88円で買うこともできます。「LPG料金は、戸建ての場合は消費者が自分で決めることができます。一方、アパート入居者は業者も料金も自分では決められません。そのため、アパートのLPG料金は高いです。お茶で例えると150円です。場合によっては200円というケースもあります。業者にとって、アパートの入居者は『オイシイ』のです」
入居者は「都市ガスアパート」を選ぶ
都市ガスはLPGよりもずっと安いそうです。コロナ禍で生活が苦しい入居者は、LPGのアパートを敬遠します。その結果、LPGアパートは空き室が多くなり、大家さんの経営を圧迫することにもつながるのです。
アパート経営は「増・減・古」の三重苦
アパート経営も通常の商売と同じように、売上は市場の「需給」に影響を受けます。
- 供給の増加…近所にアパート等が新しく建つ
- 需要の減少…人口減/建物が古くなる
これらはアパート経営にとってマイナス要因ですが、大家さんには防ぎようのないことです。できる対策としては、建物をできるだけメンテナンスし、キレイな状態にしておくことでしょうか。
LPGで、大家さんへのメリット「大」
堅山さんは言います。「携帯電話(スマートフォン)の会社ではよくあることですが、LPGでも業者を替えることによって得られるメリットがあります。
- 例えば、取引成立で契約者(大家さん)への御礼金として2DK以上は1室7万円、1R・1Kは1室5万円が受け取れるケースもあります。2DKが50室のアパートなら350万円になります。また、給湯器が壊れたら無償交換(修理費1台15万円、50室で750万円)といった特典がつくこともあります。入居者のLPG料金は、今よりも必ず安くなります。
これらの特典は必ず書面で約束を交わすのをお忘れなく」と話してくれました。
詳しい手続き方法などは、堅山さんに電話またはメールで相談してみるのがいいでしょう。
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