今回のテーマは「団地」。突然ですが、団地にはどんなイメージがありますか?広い敷地、公園や豊かな緑、立ち並ぶ集合住宅――。一方、実際の暮らしは馴染みが薄い人も多いのでは。住民の人々の“今”を知るべく、神奈川区の「西菅田団地」を調査してきました!
大規模団地「西菅田団地」
UR都市機構の西菅田団地は、昭和46年に神奈川区西部の丘陵部に開かれた区内有数の大規模団地です。
団地中心部にはスーパーやドラッグストア、郵便局などの生活に必要な施設が揃っています。しかし近年、入居者の多くが高齢となり、団地内の坂道が外出時の負担となっていました。
住民ボランティア「西菅田団地けやきの会」が発足
そんな課題を解決しようと立ち上がったのが、団地住民による「西菅田団地けやきの会」です。2021年にUR都市機構、神奈川区社会福祉協議会、区役所、菅田地域ケアプラザ、地域の社会福祉法人とともに団地再生プロジェクトを始動し、翌22年に住民ボランティアによる「移動支援」の取組が始まりました。
使用するのは、近隣の特別養護老人ホーム「けやき荘」(社会福祉法人孝楽会)の車両。同法人が「団地の課題を聞き、長年お世話になっている地元の人々に恩返しをしたい」と、デイサービスの送迎時間外を活用して貸し出してくれています。さらに安全運転や乗降時の介助方法などの研修指導もサポート。
- 運行は、毎週火曜の午前中。誰でも無料で利用可。各街区の停留場所を巡り、スーパーなどが立ち並ぶ中央部へ。帰りも各街区を巡り送ってくれます。ドライバーと添乗員は、各4人の計8人が持ち回りで担当。(詳細は団地事務所☎045-470-1885)
ドライバーの一人、難波修さんは、長年車両整備の仕事に従事。「安全第一で、時間に余裕を持つことを意識しています。一緒に暮らす人々の役に立てるのがやりがい。何より自分の好きな車の運転で貢献できるのが嬉しいですね。利用者さんにも何かあったらいつでも呼んでと伝えています」と笑顔で語ってくれました。
「ご高齢の方たちよりは少し若いので、力になれればと参加しました」と話すのは、添乗員の太田多美子さん。「杖をついている方もいるので、乗降時に焦って転倒しないように注意しています。常連さんとはすっかり顔なじみで、今まで以上に団地内の人間関係が深まりました」と魅力を教えてくれました。
- 移動支援は他にも区内で事例はあるそうですが、ドライバー・スタッフも住民ボランティアなのは西菅田団地だけだそうです。身近なご近所さんが対応してくれるのは、安心感がありますよね。
取材時に初めて利用した70代女性からも、「同じ団地の仲間だから安心して利用できました。車内でも住民同士ならではの日々の悩みや世間話もできてありがたい」といった声が。常連の80代女性も、「昔は平気だったけど、最近は休憩しないと歩けなくなってしまって。特に帰りは荷物も多く上り坂だから本当に助かっています」と、軽い足取りで買い物に向かっていきました。
- 実際に記者も乗車させてもらいましたが、難波さんのスムーズな運転と太田さんの軽妙なトークで、あっという間にルートを一周。「また乗りたい」と思える確かな技術と親しみやすい雰囲気が感じられました。
広まる・深まる団地の絆
“住民による住民のための移動支援”を支えるのは、団地の課題を自分事として捉えて協力してくれる、人々のつながり。「これまでに団地内のイベントなど、交流の機会を用意してきたことが、団地の絆につながっています」と西菅田団地自治会の野原清喜会長は話します。
毎月1回の「食事会」や夏には「盆踊り」も企画。「ワンコイン居酒屋」も人気で、用意したメニューに加えて参加者からの差し入れもあり、賑わうのが恒例だそうです。2022年10月には、地域住民も招いた「ブックフェスティバル」を開催。団地内で集めた古本市や演劇で大盛況となりました。
「イベントを通じて培われた地域の絆が助け合いの活動につながり、交流も深まっています。多世代にこの輪を広め、次世代の担い手育成にもつなげていければ嬉しいですね。『住んで良かった』『住み続けたい』と思える団地を、作ってきたいです」と野原会長。団地を管理するUR都市機構の担当者からも「助け合いの気持ちを大事にされている住民ボランティアの方々の取組を応援しています」とエールの声が寄せられました。
取材を終えて
まさに“地域の絆”で支えられている西菅田団地の取組。利用者さんはもちろんボランティアの方々も楽しんでいる姿が印象的でした。イベントも思わず参加してみたくなるものばかり。これからの活動にも注目ですね!